マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.12(全5ページ)
日暮れ
丘陵群を越え、南にある峡を越えるとその先からは進路を西南西に取る。太陽はもう進路の正面にまで沈んで来ている。
ここからしばらくはまた平坦で何もない道に戻る。変化がないとまた足の痛みに意識が向いてしまう。
足のいたる所に水ぶくれができているはずだ。第4チェックポイントで一度足のケアを行おうと決める。
第4チェックポイント通過の制限時時刻は深夜1時。ここを早めにクリアすれば落ち着いて治療ができるというものだ。
そして足の治療に加えもうひとつ。食事をどうするべきか考える。
道中アルファ米に水を入れておけば第4チェックポイントで食べ頃になっているはずだ。
しかしいざ食べるとなればあれやこれやとしている内に30分や1時間などあっという間に経ってしまうだろう。
足の治療の時間も考えると大きなロスとなる。どうするべきか・・。
お腹の具合を確認する。すでに18時だが、行動食を小まめに補給しているため空腹感はない。
そして行動食の残量を確認する。最初に書いたとおり、かなりの量を確保していたためまだまだ余裕がある。
よし、決めた!食べずに行っちまおう!
もちろん無補給というわけではない。食事計画のメニューは取らず、行動食だけでゴールまで持たせようというプランだ。
エネルギー的には行動食だけで充分足りるはずだ。もしものためにアルファ米などは捨てずに持ち歩けばいい。
悩みに悩み何度も作り直した食事計画だが、机上での想定と実際の状況との差を考えれば遵守しても仕方がない。
・・・行動食だけでゴールまで行こう。その考えに至った際に思っていた理由をいま書いているが、
どうやら自分を納得させるためにそう思い込むことにしていたのではないかと考えられる。
実際のところ食事はしっかり取った方がよいに決まっているし、時間のロスも仕方のないことだ。
”だってその方が面白いし”。恐らく頭をもたげたその思いを抑えられずに行動に移してしまったのだろう。
興が乗ったら止まらないこの無謀がいかにも私らしいが・・。
ともあれ、これで期待していた夜間の走行をほぼ丸々楽しめる形にはなった。
辺りはもう随分と暗くなってきており、スタッフがコース上の道標に灯りを点した例のスティックを取り付けて回っている。
道標は500m毎に1本程度あるので、小さな灯りだが何とかそれと分かる。成る程、選手の灯りの併せこうやってコースのロストを防いでいるのか。
ちなみに選手が装着するスティックの灯りはイエロー。道標のものはグリーンだ。
18時30分のコース進行方向(西南西)
同じく18時30分。西の空に沈みゆく太陽
20分後。日が沈み切る直前。
足を止め、黄昏時の淡い空をじっと見入る。もはや横切る選手の顔もよくわからない、文字通りの”誰そ彼(たそかれ)”
明日の朝、背中から昇る同じ日をコースの何処で見ることになるだろうか。
日没を見届け、その場にバックパックを降ろす。
被っていた帽子とサングラスを外してバックパックに詰め込み、代わりにヘッドライトを装着して灯りを点ける。
折ったスティックを再びメッシュのポケットへ差し込み、準備を整えた。
闇夜のサハラは一体どんな世界なのだろうか。ずっと夢想していた一夜が始まる。
ヘッドライトとスティックの灯りが、暗闇の荒野にぽつりぽつり点りと始めていた。