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サハラマラソン参戦記録 vol.8(全3ページ)

2014年4月、弊社の社員である尾西基樹30歳(独身)が、世界で最も過酷とされるサハラマラソンに参戦した記録譚、第8回。
時折必死の形相をみせるものの、まだまだカメラ写りを気にする余裕はある模様。そしてついにロマンス要素が!!

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4月7日 – 後編 –

イギリス人のお嬢さんとお父さん。そしてベルベル人の子供たち

1.5Lの配水を受け、ジープのホロの下でしばしの休息。少ないスペースを譲り合う。
お腹に何か入れようと思い、ササミの干し肉が入った真空パックを開けるとけっこうな量の汁が垂れ落ちてきた。大丈夫かこれ?
若干不安だが食欲が勝り、そのまま齧り付く。ササミの塩分がたまらなく美味い。貴重なたんぱく源でもある。

干し肉を齧った際に唇の痛みに気づく。乾燥のため、油断するとすぐに唇が割れてしまう。
小物入れからリップクリームと、ついでに目薬を取り出す。唇とコンタクトレンズをそれぞれ乾燥から守る。

スポーツドリンクは複数用意していたが、すでに若干の飽きが出始めていたので、
嗜好品として持ってきたパインジュースの粉をそれらに混ぜてみた。しかもかなり豪快に。
パインジュースが色、味ともに他の駆逐に成功。新しい味を得れてご満悦の私。しかもけっこう美味いぞこれ。

ロードブックを確認する。次のチェックポイントまでは8.1km。そこからフィニッシュまでは6.9km。計15km。
ここまでが26kmと長かっただけに、気持ち的には少し余裕を感じる。時刻は14時を少し過ぎたところ。なんとか目標の18時に間に合うかもしれない。

途中の涸れ川の近くで放棄された民家の脇を通る。家屋は若干荒れているが井戸もある。雨季になれば人が戻るのだろうか?
ボロボロになった子供の靴やぬいぐるみが転がっており、中々に不気味だ。
ここで日本チームのムードメーカー・Gさんに追い抜かれる。彼のペースが上がっているというよりは私のペースが落ち気味なのだろう。

意識して少しペースを上げるが、白人選手にどんどん抜かされていく。脚を動かすペースはそう変わらないはずなのだが、いかんせんコンパスが違う。
若干の理不尽を感じながら歩いているとブロンドのイギリス人女性が声をかけてきた。

「 ハイ、調子はどう?あなた昨日チェックポイントの手前で声を上げてた人じゃない? 」

あー、あの場にいた人か。よく私だって分かったな。
そうだよーと答える。

「 やっぱり!あのとき、あなたにとても励まされたの!凄く辛い状況だったから。 」

へーーーー誰かの力になれたんだ!素直に嬉しい。

続けて、
「 とても勇気が出るからこれからも続けてね。 」と、とてもチャーミングな笑顔で応えてくれた。

調子に乗る私。
「 もちろん!毎日、毎チェックポイントごとにやるよ!君のためにね! 」

普段ならこんな薄ら寒い台詞はとても言えないが、そこは非日常真っ只中のサハラマラソン。さらっと口に出る。

彼女もいい感じに笑ってくれている。
なんだこれ?いい雰囲気じゃないのか?もっと喋るか?
しかし、こんなお嬢さんが一人でサハラマラソンに?年齢も私より若そうだし・・・。

「 おい。 」

そんなわけ

「 何してる。早く行くぞ。 」

ないですよね。

見れば白髪の大柄な男性がこちらを伺っている。彼女がかなりの長身なので、身長こそ彼女と同程度だが不思議な迫力がある。
彼氏かな?と思い男性の方をじっと見てみる。すると彼と目が合い・・ん?何だこの違和感は。
すると彼女

「 パパなの♪ 」

ですよねー。
だって完全に父親の目をされていますもんね。
娘に悪い虫がつかないよう見張っている。そんな鋭い眼光です。

お父さんの威に屈し、すごすごと引き下がる私。カッコ悪い・・。
そんなベタなひとコマを演じつつ、彼らと互いの健闘を祈り合い別れる。

イギリスのお嬢さんとパパ。彼らとはこれから毎日出会い、パパに怯えながら挨拶を交わす。うっ・・。

第2チェックポイントを出て2時間、緑に囲まれた小さな集落が見えてきた。
水源が豊からしく、パリを出てから久方ぶりにまとまった緑を見た。
井戸の近くの陰でひと休みしていると、この集落に住んでいるであろうベルベル人の子供たちが近くに寄ってきた。

サハラマラソンは開催地であるモロッコでも名が通っており、毎年この時期に開催されるのが周知されている。
コースの所々で子供たちが自らの口を指差し「 キャンディー! 」と、選手にエネルギーバーの類いをねだってくる。
1、2人で来るのが常だが、ここは集落のためけっこうな人数が集まってきている。

少々身の危険を感じる。
というのも、過去に数人の子供に囲まれた選手が食べ物のみならずサングラスを奪われ、それが原因で眼を傷めてリタイアになってしまった事例があるからだ。
開催地であるモロッコの子供たちを無下にしたくはないのだが、ここは心を鬼にして拒否の姿勢を示す。
もう少しゆっくりしていきたかったが、否応なく立ち上がり、すぐそこにあるはずの第3チェックポイントを目指す。
余談だが丁度ウサギ耳のカップルもやってきて、私含め被り物が3名も揃っていたので子供たちは何だこいつ等というような奇異の表情を浮かべていた。

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