マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.6(全4ページ)
第2チェックポイント~
チェックポイントが見えてから程なくして到着。第1チェックポイントからは2時間40分程。
ゴールまでの距離と地形を確認したかったが、ロードブックの入ったバックパックを下ろすのが億劫だったため日本の誰かに教えてもらおうと思い、チェックポイント内の休憩テントへ向け「日本人おるかー!」と、疲れているのため少々投げやり気味に叫ぶ。
近くのテントから「尾西さんここだー!」と返答があり、見ると留学生のRくん含む3名の日本人が座って休息を取っていた。
彼らのもとへ赴き、バックパックそのままで腰を掛け、ロードブックを見せてもらう。
ゴールまではあと8.2kmと僅かだが、丘陵越えと砂丘越えがある。
初っ端の大砂丘の影響で、砂丘を示す”Dune”という単語に私含め皆うんざりしていた。
砂丘が控えているなら時間的にもこんなところでゆっくりしている暇はない。
幸い調子は上がってきている。素早く給水を行い、テントを立ち去ろうとすると入替わりでデビルマンが転がり込んできて大の字で倒れ込む。頑張れデビルマン!
もうひと頑張りでゴール。
気持ちを前向きに押し上げようと、チェックポイントの出口でiPhoneを取り出し、坂本九さんの「上を向いて歩こう」を聴く。
iPhoneは、砂対策のためラップフィルムでぐるぐる巻きにしている。
メロディーの冒頭からどんどん気分が盛り上がる。ここは砂漠だし、どうせ迷惑にもならないだろうと全力で歌い始める。
やや投げやり気味に熱唱していると、同曲を知っているフランス人選手がデュエットしてくれた。なかなか楽しいハプニング。
ちなみにiPhoneの充電用に同製品を3回フル充電できるモバイルバッテリーを持ち込んでいた。
この他にもライトやカメラ等の電力は全て自分で用意し、賄わなければならない。
熱唱し過ぎていたせいで、先程の日本人3名がすぐ横を通り過ぎても気づかない始末。
一緒に進もうと誘われるも歩調が合わず、丘陵越えの手前で離脱。先に行ってもらう。
無理に合わせて進めば脚にダメージが残り、明日以降に差し支えるかもしれない。そう考えた。
丘陵越えは無心でクリア。小さな峡谷に入る
想像していた峡谷とは少し違うが、谷間を進めばいいので道に迷わずに済む。
足元は相変わらず砂地で進み難いが、陰が多くこれまでのコースよりはずっと楽である。
時刻は17時近いがまだまだ日差しは強く、帽子を取ればたちどころに日射病になりそうだ。
丘陵越え同様、何も考えず進んでいると道の脇に転がっている黄色い球体が目に入った。
近づいて見てみると握り拳程度の大きさのウリ科の実だった。手に取ってみるととても軽い。
すでに実は乾燥し切っており、中には種が残るのみのようだった。
せっかくなので戦利品?として持ち帰ることにした。
今これを書いていて、なぜこんなものを持ち帰る気になったのか全然理解できない。
だがこの実は今も手元に置いている。かさ張って道中邪魔になったが愛着がわいて捨て切れなかった。
峡谷をクリアし、砂丘群の入口へ向かう。
この辺りで例のウサギ耳のカップルと再び出会う。
2人ともバックパックがかなり小さい。格好はアレだがかなり考えて来ているようだ。
彼が先行して彼女をエスコート。仲良しの2人を観察していると飽きない。何やってんだ俺・・。
余談この2人、最終日に大喧嘩をしていた。
肝心の砂丘はというと、地図でもわかる通り最初の大砂丘と比べ規模はかなり小さい。
それでも道中はあの苦しみを思い出し、気持ちがついつい後ろ向きになり、その都度もう少しでゴールだと自分を奮い立たせた。
そしてこの砂丘の半ばで極めて重大で恐ろしい事実に気がついた。
すでに日が傾き始めているので、暗くなったらライトがいるなぁと考えたときである。
・・ない。ヘッドライトがない!
さて、なぜ本日ここまで登場していないはずのヘッドライトがないのでしょうか?
答えは簡単です。最初の大砂丘でバカな真似をした際にボトルと一緒に落としていたのです!
なぜヘッドライトがボトルと一緒に?と、お思いでしょう。
思い出していただきたい。前日のチェック時にバックパック内で他の機材と接触し、ライトの電源がついてしまっていたことを。
同じことにならないよう、用心して例のボトルに巻きつけたのです。だからボトル脱落時に一緒にポロっと・・。
スタート前の私の画像をご覧下さい。右のボトルに確かにヘッドライトが巻きつけてあります。
電源をつかないようにするだけなら他にもっとしようがあっただろうに・・。
ボトルがグラついていたのもヘッドライトの重みのせいだったのではないかとすら感じる。正に後悔先に立たず。
ヘッドライトの紛失は行動食のボトルを失くしたのとはワケが違います。
なぜならヘッドライトは必携装備の一つであり、夜間の走行においても欠かすことができません。
これがなければオーバーナイトのクリアは絶望的であり、それ以前にペナルティで走れなくなる可能性だってあります。
激しく焦る。こんなことで自分のサハラは終わってしまうのか?!自分のバカさ加減に嫌気がさす。
持ち物のほぼ全てに名前は書いていたが、ヘッドライトに関しては日本を発つ直前に光量がより出るものに変更したため、これには名前を書いていなかった。
名前入りのシールを貼っているボトルの近くに一緒に落ちたはずなので、そこに一縷の望みをかける。
とりあえず今やるべきことは日が暮れる前に今日のレースを終えることである
あともう少しのはず・・必死に砂丘群をクリアしていく。
そして第1チェックポイント同様、砂丘の頂点に立ったとき、とうとうゴールのエアアーチとビバークが見えた。
後続へ向け、あともう少しだと報せる。
最後の直線は、ZARDの「負けないで」を聴きながら駆ける。
もう体力的にも精神的にも参ってるはずなのに、曲に押されて脚が動く。音楽は偉大である。
感情丸出しで、このときは先程のライトの件も忘れていた。
ゴールにはチェックポイントと同じく計測マットが敷かれ、幾人かのスタッフがブラボーの声とともに出迎えてくれた。
両手を掲げマットを越える。そしてその場で回れ右をして帽子をとり、今日一日、自分を迎え入れ鍛えてくれたサハラの大地に
畏敬の念を込め、「 ありがとうございました! 」の声とともに一礼した。
時刻は18時過ぎ。タイム的にはスタート時刻が若干押したため、9時間丁度といったところか。制限時間の1時間前でのゴールであった。
エアアーチを抜け、ティーポットのバルーンを横切る際に紙コップに入った熱々の紅茶を手渡される。
・・・・・何の冗談だろう。34kmを走破し火照った体で、しまもまだ軽く30℃はあるこの気温の中、この熱いお茶を飲めと?
嫌々一口啜ってみる。
あ、甘くて美味しい・・。
今朝の食事以降、もう14、5時間は水と行動食しか口にしていなかったため、お茶の香りと甘さが新鮮だった。
熱いのでフーフー冷ましながらいただく。この場のシュチュエーションを考えると、これもなかなか乙なものである。
これ以降、この大会のメインスポンサーであるスルタン社のお茶に嵌ってしまい、モロッコを発つ際に同社のお茶を買い求めた。