マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.4(全3ページ)

そして昼食。食べてばっかりである。
昼食後、チェックにはまだ時間があるので明日の朝に向け、調理用の薪拾いを行う。
意外に思われる方も多いと思うが、薪になるような枯れ木は砂漠地帯を除けばサハラのそこらじゅうに転がっている。
実際にテントから3分も歩けば枯れた小枝が散見していた。窯にくべるのに丁度いい大きさのものを物色する。
すると遠くから聞きなれない言語が私へ向け飛んできた。モロッコの現地民であるベルベル人だ。
彼らベルベル人はこの大会に大きく係わっており、設営のスタッフはもちろん、歴代の優勝者も数多く輩出している。
そしていま私に声をかけてきている彼のような外部からの接触者もいる。

言葉はわからないが、身振りで言っていることはよく解る。
”こっちに薪が沢山あるぞ”
・・・露骨に怪しい。いや確かに彼のいる方には大振りの薪が転がっているし、彼も薪を拾って私に渡す素振りを見せてくれている。
その妙な親切振りと彼の近くに停車しているバイクのその荷台のふくらみが怪しいのだ。
これは”アレ”だな・・・ウワサのボッタくり露天商だな。
彼らは毎年参加者相手に商売を行うようで、しばしばこの様な手法で接触を図ってくる、と過去の参加者の記録にあった。

彼の手招きに応じれば否応なく商談が発生する。もちろん応じる。これは面白そうだ。
私が赴くと大仰に歓迎の意を表し、大量の薪を手渡してくれた。そんなことでは騙されないぞ、というか渡された薪が棘のあるタイプでとても痛い。
私が薪を一先ず脇に置くと、彼はバイクに積んでいた荷を降ろし、私の前で広げ始めた。ほらやっぱりな!そうこなくては。
モノはシルバーアクセサリの類のようだ。独特のパターンが美しい。
品物を一通り見せると首輪か腕輪どちらが好きか尋ねられ、腕輪と答えると価格を提示してきた。2個で25ユーロ。
高い、高過ぎる。日本円で3,500円超。
そりゃないよという態度を示すと予定調和のように即20ユーロにディスカウント。
こりゃ相当ボる気だな。というか2個もいらない。1個でいいよと言うと2個じゃなきゃ売らないと言う。
じゃあいいよと立ち去ろうとすると1個で売ると引き止めにくる。様式美だ。
1個の価格は?と聞くと10ユーロ。なんだそのままか。ここからが本当の勝負だな。
この後、詳細は省くが彼の仲間が来たり、私が面倒くさくなって本当に帰ろうとしたりで結局4ユーロで決着&購入。
一体原価は幾らなんだろうと思ったが、それ以上に価値のある経験ができたのでよしとする。品物も本当に綺麗で気に入った。
交渉相手の彼は人柄も良く、商談後もお互いの国の挨拶などを教えあった。
私がこの旅で知り合ったベルベル人はみな笑顔を絶やさず、温和で親しみの持てる方が多かったのでそういう民族性なのであろう。

腕輪と大量の薪をテントに持ち帰るとそろそろチェックの時刻が近づいていた。チェック用のテントの方を見るとまだ前の組が終了しておらず、テントの外まで列ができている。
今から並び始めてもかなり待たなければならないのは分かっていたがそこは”いだち”なので、同じ気性の広島のK池さんと先頭切って列に加わる。
このチェックには本番と同じ装備で赴く必要がある。というよりもレースで使用しない荷物の一切をここで預けることになるため、必然的にそうなる。
列の流れは意外と速く、しばらくするとテント入口に到達。荷物にNo.1024の荷札を付けてもらいスタッフに手渡す。一週間後までさようなら。

テントに入るとまず受付。ゼッケンナンバーと氏名の確認を行い、2枚つづりのカードと記録用のICタグを受け取る。
2枚つづりのカードの1枚目は給水カード。これはビバークやチェックポイントごとに受け取れる水の規定量が記載されており、受け取った際にスタッフが対応する箇所をパンチする。
2枚目は医療カード。これもビバークやチェックポイントごとに対応する欄があり、医療行為を受けた際にパンチされる。
この2枚はフロントバックやバックパック等、スタッフから見えやすい位置に装着しなければならない。私はフロントバックに装着。
ICタグはフランス製の足首に巻くタイプ。バンドを巻いた後、マジックテープ部を安全ピンで固定するよう指示があった。

さて、受付後のここからがいよいよ本番。幾つか並ぶ丸テーブルの一つに案内され、先ずはテクニカルチェック
これは主にバックパックの検査となる。午前中に書き込んだリストをスタッフに差し出す。リストを軽く流し読みされ、食糧の重さは?と聞かれる。
ん~6kgぐらいかな?と答えるとバックパックのチェックはそれで終了してしまった。
これは予想していたことなのだが、バックパックが極端に小さい選手、つまり規定重量の下限(6kg)に近い選手以外のチェックは緩い。

次にメディカルチェック。医療関係の検査である。日本で作成したフランス語の健康診断書と心電図を提出する。
この健康診断書には血液型等の基本的な内容の他、以下の様な記述がありそこに医師の直筆サインが必要となる。
「 私(医師)は、この者(私)が極度に乾燥した最高気温50℃の土地で、約240kmのマラソンに出場するにあたり、健康上の問題はないことを証明します。 」
このサインしてくれる先生を探すのに苦労した(笑)。結局、母の係りつけの内科の先生にお願いしてなんとかサインをいただいた。先生、本当にありがとうございました。
同じ先生のクリニックで心電図検査も受け、結果問題なし。こちらも原本にサインをいただいた。
これらは内容に不備がないかドキドキしていたが、問題なくクリア。
ここでソルトタブレットを手渡され、水1Lにつき2錠摂取するよう指示があった。ちょっと多いんじゃないか?という印象。

二つのチェックが終わり、出口付近のテーブルに続く列に並ぶ。列の途中で緊急信号用の発煙筒を手渡された。
この発煙筒はレース中は携帯が義務づけられており、しかもかなり大きく重い。私のバックパックはサハラマラソン公式のものを購入していたので、ちゃんとこの発煙筒が収まる筒上のスペースがあった。
テーブルに達すると待ちに待ったゼッケン! No.1024、”いい尾西”とご対面。
ゼッケンは2枚あり、1枚を胸部に、もう1枚をバックパックの背面に付ける。
公式バックパックはゼッケン取り付けに関しても優れもので、胸部背面ともにゼッケンの安全ピンをひっかけるフックが付いている。
こんなフックが付いていること自体このときまで気づいていなかったが、ペルシャ系美人のお姉さん(スタッフ)が優しく教えてくれた。
このお姉さんに、そして他のスタッフにもこのチェックの最中何度も毛虫の前立てについて尋ねられ、由来を話すといいリアクションをしてくれた。

 

チェックテントを出るとラクダがお出迎え。
スタートラインに立てるか否かの緊張感から開放され、それも相まってラクダを見ておおはしゃぎしてしまった。仕方がない。
ちなみにこのラクダ、レース中は毎日最後尾として進んでくる。役割は足切り宣告者。
つまり彼らは制限時間いっぱいのペースでコースを進み、彼らに追いつかれた選手は制限時間制限をオーバー=リタイアとなるわけである。お世話になりたくないものだ。

 

テントに戻りみなの帰りを待つ。我が53番テントは首尾よく全員クリアとなったが、チェックの話題よりペルシャ系お姉さんが綺麗だったね、なんて話ばかり。これも仕方がない。

53番テントの様子

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