マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.16(全5ページ)
夢の終わり
先程の嗚咽と凸凹コンビとのあれやこれやのやり取りで随分この場に留まっている。
だがフィニッシュまではあと3km残っている。
凸凹コンビを見送り、続いて私も出立する。だがその速度はすこぶる遅い。後から出たN村さんにすぐ追い抜かれるほどに。
足の痛みからなどではなく、意識的にゆっくりと歩いている。
終わってしまう・・
フィニッシュをすれば私のサハラマラソンは終わってしまう。だからゆっくりと歩いた。
この感覚を例えるならば、大好きな小説や映画で最後の山場を終え、エンディングの到来を感じてしまった頃。
あの何とも言えない寂しさ惜しさによく似ている。
残り1.5km。
凸凹コンビがコース脇から戻ってきて私の前に入る。この期に及んで脇にある砂丘で寝転んだりして記念撮影してやがった。
残り1km。
コース脇でスタッフや現地民がブラボーの声とともにフィニッシャーを迎える。
そういえばどうやってフィニッシュを迎えるか決め切れていなかった。どうしようどうしよう・・。
残り500m。
黄色い道標が立っている。これまで見たことのない道標。最後の道標。そこにはこう書かれている。
”ブラボー!よくやった!”
ああ、よくやった・・。よくやったよ。
どうやってフィニッシュを迎えるかもようやく決心できた。
そして残り30m。
足を止め、フィニッシュゲートをジっと眺める。
ゲートの周りにすでにフィニッシュした選手やスタッフ達がたむろしており、彼らが早く来い来い!フィニッシュをするんだ!と囃し立てる。
ふはは、そうはいかんざきなのだよ。
おもむろに例の一眼レフカメラを取り出し、日本人のステレオタイプよろしく写真を撮りまくる。
オフィシャルのビデオカメラや、フィニッシュの先で手招きする某主催者も目に入ったが無視無視。奴ら呆れてやがる。
最後の最後までマイペースを貫き、近くにいたスタッフに記念撮影をお願いする。
さあ、やることもやったしフィニッシュだ!
フィニッシュライン。そこにはサハラマラソンの主催者であるパトリック・バウワー氏が完走メダルとともに佇んでいる。
氏から直々に完走メダルをかけるのがこの大会のフィニッシャーへの習わしであり敬意の証しだ。
ふぅ
一息吐いて歩き出す。自然と笑顔になっているのが自分でもわかる。
歩きながら帽子を取り、サングラスを額に上げる。生の色彩でフィニッシュを見つめる。
取った帽子は右手に持ち、常に装着していた右のリストバンドのロゴ。所縁のあるツール・ド・北海道のロゴと前立てが正面になるように目一杯掲げる。
喝采の中、足元に敷かれたゴムマットの白線を下目で見つめながらフィニッシュ。
終わった・・。だがそれに続く感情は涌かない。
14ヶ月前に始まった夢が・・4,000kmと236.2kmの夢の時間が終わってしまった。
俺のサハラマラソンは・・いま終わったんだ。
このフィニッシュの場面はオフィシャルの写真に納まるだろうと考えてたのだが、残念ながら採用されなかったようだ。
採用されたのはこの後のパトリック氏とのひとコマ。
フィニッシュを果たした私にパトリック氏が完走メダルを首にかける。
そして両手を広げ、「ブラボー!」と声とともに氏の剛腕ハグが私を襲う。なんかやたらと力強い。
ハグから解放され、氏と握手を交わす。やっぱりすごく力強い。
ではオーバーナイトステージの後、テント仲間に総ツッコミを食らった私の悪相。むくんでパンパンにふくれ上がった顔をご覧いただこう。
誰やねんこいつ・・。この写真を見て我が目を疑いました。開かない目に疲労具合が見て取れます。
何はともあれパトリック氏との儀式を無事終えました。ちなみにこの儀式、フィニッシュラッシュのタイミングだと順番待ちが発生するそうです。
氏と手を離した後、その場でコースの方を振り返る。
そして居ずまいを正し、サハラに向けていつものより強く、そして深く「ありがとうございました!」と礼を述べた。
横でパトリック氏が「 ウララ~ 」って笑っている。