マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.16(全5ページ)
嗚咽
ここまで何度か書かせていただいたが、ここでもう一度断りを入れさせていただく。
私がなぜサハラマラソンに出場しようと考えたのか?一言でいえば「 楽しそう 」だったからだ。
ドキュメンタリーでサハラマラソンを知った瞬間、興奮が止まらず自分でそれを体験してみたくなった。
故に目標は幼稚な表現だが最大限楽しむこと 。決して完走が主ではなかった。
完走のその瞬間、どんな感情に支配されるのか興味がなかった訳ではないし夢想してみたこともあった。だがその程度だ。
道程を楽しみにきた。決して結果は重要ではなかった。
そのはずだった。
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考えてごとをしていて丘陵の登りに入っていることすら気づいていなかった。
そして丘陵の上に到達すると急に視界が開け驚く。
そのままぼーっと歩いていると先程私を抜かしていったN村さんがバックパックを外し、進行方向をじっと眺めている姿が目に入る。
随分先に行ったはずなのに、なんでこんなところで・・
ハッとする。
慌てて彼の視線の先に目をやる。
それは突然やってきたのだ。
見えた・・・・・。フィニッシュだ・・。
そしてその瞬間。
「ウッ・・・グッ・・ウウッグググ・・」
・・体が勝手に。
嗚咽。と、呼べばいいのだろうか。
「ウウウウッ!・・アグググウッ!」
止まらない。涙は出ているのかどうかよくわからない。
思考は体の反応とは切り離されており、妙に冷静。が、ひどく混乱している。
なぜ?なぜ自分はこんな反応を・・!?先の理由の通りそれほど意識していた瞬間ではないはずだ。
何かしらの感情のわき上がりはあるだろうと思っていたが、ここまでのものは予想外だ。
しかもまだフィニッシュをしたわけではなく、そのゲートが目に入っただけなのに・・。
だが、自身のこの予期せぬ反応に対して嫌悪感はなかった。
止めようはないのだが、止めようとも思わない。
私の嗚咽に気づいたN村さんと、近くにいた女性スタッフがこちらを見て微笑んでいる。
彼らの表情から私のこの行為は許容される種のものであると分かる。
恥ずかしさなど欠けらもなく、むしろ誇らしいものを感じる。
高校野球などで球児らが流す涙を見てもその意味、その背景にある”何か”が理解できなかった。
だが、今は何となく分かる。
ひとつの目的に向かってひたすらに邁進し、やり切った結果だからこその涙か。
驚くことにいつの間にか自分もそれを得れるまでに成っていたようだ。
ただただ嬉しく誇らしい。こんな気高きものを得れる日が来ようとは・・!
決して結果は重要ではなかった。が、素晴らしい無二の結果が付いてきた。
一向に収まる気配のない私にむかって女性スタッフが歩み寄る。
そして汗まみれ砂まみれの私を無言で力強く抱きしめてくれた。
お?
この連載はvol.1からここまでずっと、起きたこと感じたことを正直に書き綴ってきた。
感動的で爽やかな素晴らしいシーンが台無しになるが仕方がない。ここもそうしよう。
や、やったぜ!(心の声)
素敵なお姉さんのハグに多分鼻の下は伸びていたであろう。バカであるバカで。
そしてしばしそのまま彼女に身を委ねる。たぶんN村さんはニヤニヤして見守ってくれていたはずだ。
しばらくして落ち着いたので、彼女に「ありがとう。」と言い顔を上げる。
彼女がフランス語で何か言っているがよく分からない。だが優しい言葉だと感じ取れた。
そして彼女が前立てを指差したので説明をすると自身のスマートホンを取り出して私に見せてきた。
スマートホンの待ち受け画面には甲冑姿の侍が映っている。そして今度は英語で。
「サムライは私の大好きなヒーローなの!貴方もそうなのね!」
え?
ええっ!?
な、なんだこの素晴らしい流れは・・!
や、やったぜ!!(心の声)
先程までの感動はなんのその。絵に描いたような流れの到来に途端有頂天に。
これは・・チャンス!
そして彼女に向かって調子に乗った発言をしようとしたその瞬間・・!
「Whoooooo!!!!!」
後続の誰かがフィニッシュを見つけ喚声を上げたようだ。
・・・まったく、なんでこんなときに。
誰かが・・というか振り向かなくても声で何者かすぐに分かった。
「サムライさ~ん!」
凸凹コンビである。※本日2回目
彼らが目ざとく私を見つけ、駆け寄ってくる。
途端その場が混沌めいた雰囲気となる。成り行きを眺めるN村さんは苦笑している。
まったく・・なんでお前らはこんなイイときに。
というか第2~第3チェックポイントの間で私を抜いていったよな?
それがどうして後ろから来る!どこで道草食っていたんだよ!
本当に・・まったくこいつらは・・・なんて面白いんだ!
そして俺達は、
友となった! ※N村さんが撮ってくれました
出会って一週間も経っていない上に国も人種も言葉も違う。
が、きっと似た者同士なのだろう。通ずる者とは通ずることができる。この面白さは筆舌に尽くしがたい。