マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.14(全5ページ)
オーバーナイトステージを終えて
3本の水のボトルを携えテントへ向かう中、安堵と悔しさの混じった不思議な感情に支配されていた。
憂慮していた難関をクリアできた安堵。今日1日たっぷり休めるという安堵。残すはあと1ステージという安堵。
一方、目標を4時間近くもオーバーした悔しさは言語に尽くせないものであった。
53番テントに戻るといつものように眠そうな顔のK池さんがいた。
今日に限っては眠そうというのは正確な表現ではない。夜間にゴールしてたっぷり睡眠をとった寝惚けた顔である。
まったく恐ろしい人だ・・。
そして、K池さんの奥でひっくり返ってる物体を発見する。・・・F岡さんである。
寝ている・・・とても気持ち良さそうに。およそ1時間前にゴールを果たしたそうだ。
F岡さんという現実的な指標を前に、改めて自分の不甲斐なさに嫌気が差した。注:決してF岡さんを貶している訳ではありません。
K池さんとオーバーナイトステージについて振り返っているとF岡さんが起きてきた。私の姿を見つけた彼の顔には悪い感じの笑顔が零れていた。
ちなみに後日彼のブログで「やっと尾西を倒した!」とその嬉しさを綴っておられた。この借りはいつか返さなければならない。
F岡さんを交えて話を続ける。3人が3人とも思ったことは第1チェックポイントを出た先の山の険しさと、最後の直線の長さであった。
苦しいところはみな同じ。そして印象に残る箇所もやはり苦しいところらしい。
F岡さんは大会序盤は気候への対応で苦しんだものの(半分以上は自業自得だが)、尻上がりに調子を上げている。
K池さんはオーバーナイトステージも早々にゴールし総合順位も上位につけているはずだ。だがその反面足の状態は悪化する一方で今日も手術を受けたらしい。
私はこのオーバーナイトステージで自身の足の状態が良ければ、つまり足のケアに費やす時間がなければ目標の時刻にゴールできたのではないかと考えていた。
だが、私より状態が悪いにも関わらず上位でゴールを果たしたK池さんを見ていると、それも実力のうちなのだと悟った。
私にもっと実力と経験があればあの状態でも善戦できただろうし、そもそもあの程度の速度の進行で足を痛めることなどなかったはずだ。
仕方がないな・・。彼らと話しながら観念してひとりひっそりと反省した。
レースの後処理を行う。
先ずは足のケア。最後のチェックポイントで治療を受けたばかりなので、新たにできた水ぶくれ数箇所潰す以外はマッサージなどが中心である。
水がかなり余っていたのでレース着のシャツを洗濯を行う。靴下以外ではレースが始まってから初めてのことである。
キープしておいたトイレ用の袋に水を入れ、そこでじゃぶじゃぶさせ汚れを落す。
洗い終わったシャツをテントの上に干す。飛ばないように岩手のS藤さんに頂いた例の安全ピンで固定する。
ちなみに間違ってもシャツを裏側にして干してはならない。次に着るときに砂地獄を味わうことになる。
丸2日分の食料が余っていたので昼食として少し食べる。
食事を終え、他のテントへのご機嫌伺いを終えた後は回復のため横になる。ちなみにF岡さんはとっくに再就寝している。
いつもの通りにテントの端に寝転がったが、テントの黒幕が異常に熱くなっており、危うく火傷をしそうになる。
太陽が一番高い時刻だとこんなことになるのかと戦々恐々し、まだ3人で広々としているテントの中の方へ避難する。
私のゴールから3時間後。疲れた顔のRくんが帰ってきた。同時にF岡さんも起きた。
彼はこれまでの記録からはもっと早くにゴールしていなければおかしい。理由を聞いてみるとかなり厳しい状況に陥っていたようだ。
夜半に行動食が尽きハンガーノックに陥った結果、チェックポイントでオフィシャルから数時間の強制的な休息を言い渡されたそうだ。
幸い彼はこの日、他の日本人選手と一緒だったため食料を少し分けてもらいなんとか回復したという。
彼はレース展開云々より、他の選手に迷惑をかけたことを心底悔いていたようだ。
更に遅れること約1時間。S和さんが無事戻られた。同時にまたF岡さんが起きた。
テントメイト5人の中で最も足の状態が悪いS和さんだったが、日本のステージレースを走られた経験をもとに上手くまとめられたようだ。
これにて我ら53番テントはオーバーナイトステージをスタートした5名全員が明日の最終ステージに進めることになった。万歳!
だが、ただひとつ残念だったのは52番テントのN嶋さんがリタイアされたことだ。
彼のテントを訪れた際に、ゲーターが壊れて砂で足がどうにもならなくなったとご本人から告げられた。
第1ステージの大砂丘で自身も苦しい中、明るい振る舞いで私にソルトタブレットを分けていただいた恩は決して忘れることはできない。
唯一の救いは彼自身がやれるだけやった。そういう晴れ晴れとした表情で常のごとく明るかったことだ。
世界一美味い???
デビーさんがインフォメーションを携えてやってきた。
インフォーメーションは3つ。まず1つはメディカルについて。
いまゴールしている貴方達は、メディカルでの治療が必要な場合は17時までに受けることという内容。
この制限にはちゃんと理由がある。終盤にゴールを迎える選手は例外なく足の状態が酷く悪いため、彼らが迅速に治療を受けれるようにとの配慮のためだ。
すでにここまで何度か書いているが、ゴールが遅ければ遅いほど翌日に向けた準備と休息の時間が短くなる。みなそれが分かっているのでデビーさん言葉に一様に肯く。
もう1つは配水の時刻の案内。通常のステージであればゴール後の3Lで次の日のスタートまで繋ぐのだが、
オーバーナイトステージは基本的にゴール時刻が早いため日中新たに3Lの配水を受ける。
そして最後の1つは、驚くなかれ”ご褒美”の配布についてだ。
この”ご褒美”が何か私は知っていた。数々の過去大会の情報を集め、その際必ずと言っていいほど記載があるからだ。
なぜそれ程高確率で記載があるのか?それはその”ご褒美”があまりに美味いからだ!
そう!
コカ・コーラである!!
オーバーナイトステージを走りきった選手達を讃えて、水以外で唯一運営から配給される”ご褒美”!
繰り返します!
そう!!
コカ・コーラである!!!※飲みました。
不思議と冷えていたこの黒い液体がどれだけ美味しかったかを私程度の語彙力で表現することは到底できない。
ただ、日中は灼熱の砂漠を駆けずり回り、夜間は荒野で寒さに震え、食事はカロリー摂取を目的としたもの以外ははろくに取れずで既にレース5日目。
しかもオーバーナイトステージを終えた直後にいただけるこの御神水を選手達はこう呼びます。
”世界一美味いコーラ”、と。
いや~本当に美味かった。炭酸が喉を通ったときは涙が出るかと思いました。美味すぎて空き缶を記念に持ち帰ったほどです(笑)
どれだけ美味いかを体験したい方は是非大会にご参加ください。それだけの価値がこのひと缶にあること請け合います。