マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.14(全5ページ)
医師ヴィンセント
第6チェックポイント到達は6時26分。残すはゴールまでの11.8km。だが、目標としていた22時間(午前7時)でのゴールは既に絶望的だ。
しかも頭はどうにか痛みから開放されたい。それ一杯で少しでも早くゴールへというような殊勝な心がけはもはや欠片もなくなっている。
足の治療のためメディカルテントへと向かう。素人治療ではなく、明日の為にもここらで一度しっかりとした治療を受けた方がよい。そう考えた。
テントには男性1名、女性2名の医師があり、そして治療を受けている選手1名がいた。
女性医師のうち1名は随分と眠そうな顔をしている。昨晩は大盛況だったに違いない。
手の空いている男性スタッフに声をかけ、足の状態の説明を試みる。
これまでのメディカルと同じく、症状をどう表現すればよいかわからなかったので、
リレハンメル五輪の靴ひも事件ばりのジュスチャーを示すと、「とりあえず靴を脱げ。」と医師から的確なツッコミが下る。
第4チェックポイント時と同じく、歯を食いしばって何とか靴と靴下を脱ぐ。ゲーターの一部が剥離しているせいか相当量の砂も靴に入っていた。
靴下を何度も叩き砂を出す。だがおさまる気配はない。3Lの有り余る給水を受けたので足をしっかりと洗い流し、医師に差し出した。
差し出した足には、また水ぶくれができている。全体的に、しかもここ以前に治療したはずの箇所に重なるようにできている。
痛みを無視して同じ靴で同じように歩けば当然であろう。医師はひとつひとつ丁寧に治療を進めていく。
数が多かったため40~50分かかったが、その間私は寝転がりながら治療を受けれたので随分よい休憩となった。
治療が終わり、綺麗にテーピングまで施してくれた。起き上がって彼にお礼を言い握手を交わす。
「ありがとう。え~っと・・」
「ヴィンセントだ。」
「ありがとう、Mr.ヴィンセント。」
しっかりとしたよい治療を受けれた。医師ヴィンセントのおかげでそう思うことができ、気持ちも上向いてゆく。
治療を受けたあとはジャマにならないよう、すぐ隣の選手テントに移って身支度を整える。
ここでロキソニンを1錠飲む。短時間の連続服用に若干の躊躇をしたが、今日と明日持てば後はどうなろうが構うことはない。
ササミを齧っていると、すぐ横でそれまで寝ていた選手が急にガバっと起きてかなり驚いた。
何だよコイツ・・と思いながら顔を見ると第4チェックポイントで一緒になった56番テントのOさんだった。
彼はここで多少の睡眠を取っていたそうだ。よくよく周りを見渡すとそろそろ起きようかなという選手が其処此処にいる。日本人選手の姿もある。
ここで、思考が姑息な方向へと動き出す。
これは・・・目標はともかく、順位的な位置はいつもと比べてまだそれ程 悪くはないんじゃないか?
ならちょっとでも差を開けるのはここや!と、まだ寝ぼけ顔の選手達を尻目にそそくさと出立する。
こういう辺りが私は本当に性格が悪いなと思う。それはともかく、意外な方向でやる気が回復したのは幸いであった。
焦らし
残り11.8km。相変わらずの牛歩だが、蓄積していた足の痛みは随分ひいた。やはり休息は大切なんだなんと改めて実感する。
砂漠地帯がずっと続く。砂が深いため轍を通ろうが手付かずの箇所を通ろうがしっかりと足を取られる。中々にいやらしい。
そのせいかここは選手ごとにコース選択が随分と違った。※写真提供F岡さん
8時を回ると気温も随分と上がってきた。ウインドブレーカーは先程のチェックポイントでもう脱いでいる。
そして後から出発したOさんにあっさりと抜かれてしまう。だが、悪辣な精神状態の私はなんとか離されないよう食い下がり、彼を視界の範囲に保つ。
よくわからない意地を発揮しながら時刻が9時30分になろうかという頃、前を行く選手がまたコースの右手方向、方角で言うと北西に消えていく。
きたか・・!期待に胸を膨らませ、その地点へ急ぐ。
いまいる砂漠地帯は周辺よりやや高地なので、遠方もよく見渡せる。
まだ彼方であるが、山の麓にゴールのエアアーチとテント群がはっきりと見えた。きたぞきたぞ!ビバークだ!!
急に元気が迸る!常のごとく後ろの選手達へ報せる。
いよいよだ!そう思い、勢いよく坂を駆け下り、ゴールへ向けた直線へ入る。
が、しかし
20分後。・・・えーっと24時間台のゴールは・・ちょっと無理かな?※写真提供F岡さん
30分後。残念ながら10時を大きく回りました。※写真提供F岡さん
ビバークが地平の先の山の麓に見えた時点でもしかしてこれはヤバイぞとは思ったんですよねー。
後ろを振り返ると、さっき(もう1時間近く前だが)煽った選手が俯きながらいかにも苦しそうに歩いている。すんません・・。
そして見慣れない光景が現れる。
川である。
ちなみにサハラに来て初めて見る天然の水だ。ちょっと感動した。
目印のある箇所に木の板が浮かせてある。念を押すがただの”木の板”だ。架けてすらいない、ただ浮かせているだけだ。
公式ではこれを”橋”と言い張っていた。いやはやなんともけっこうな橋である。
モロッコの天然水はどんな味がするのだろうか?ちょっと飲んでみたい衝動に駆られたが間違いなくお腹を壊すのでやめておく。
そして足を川の中に浸してみたくもなったが、これもあとで靴に砂が纏わり付き面倒なのでやめておく。
肝心の”橋”は、渡ろうと踏み込むと途端に景気よくそれごと沈む。結局ないよりちょっとマシ程度の存在であった。
さて、ゴールが見えて1時間少々。ようやくエアアーチが現実的な大きさになってきた。※写真提供F岡さん
そして、10時45分34秒。スタートから実に25時間37分24秒。
オーバーナイトステージ81.5kmのゴールを果たした。
達成感云々より、ようやく終わったかというのが正直な感想。あ~・・えらかった。
いつも通り深々とサハラに頭を下げる。しかしまだ午前中なので変な感じだな。