マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.13(全3ページ)

第4チェックポイント/激痛と穴掘り

丁度21時を迎える第4チェックポイントは選手団で大いに賑わっていた。多くは食事やその準備をしている。
制限時間はこの第4チェックポイントクリアで一先ず安全圏へ入るので、ここらで腹ごしらえと休息をといったところだろうか。
私は足の痛みがもう我慢できず、入口近くのジープの脇へ腰掛けて座り込む。
先ずバックパックを降ろし、靴の紐を緩める。そして、足を抜こうとするが・・・
ぐぅぁああああぁぁっっ・・・!!!!
余りの痛みに足を引き抜くことができない。足がむくんでしまっているのだろうか。
しかしどんなに痛みが伴おうとも治療のためには靴を脱がなければならない。覚悟を決め、もう一度靴を両手で掴み引っ張る・・!
歯を思いっきり食いしばり声を殺す。・・・ギギギギギ!!!

抜けたっ!
フー・・フー・・フー・・と、荒れた呼吸を整えながら、勢いのままもう片方の足も引き抜く。
チェックポイントに入り、この靴脱ぎ完了までに要した時間はなんと15分。主に靴脱ぎに手間取ったのだが、それ程痛みを伴う作業であった。
靴下を脱ぐ際、左足の小指に激痛が走る。小指は全体にテーピングを巻いているので、その上から痛みの箇所を確かめる。
指で触ってすぐに痛みの原因がわかった。爪が剥がれている。
・・・とうとうこうなったか。
爪が剥がれる程度はサハラマラソンではよくあること。その知識は持っていたし覚悟もしていたが、とても歓迎できるものではない。
ちなみに日本人の女性選手O江さんは足の爪全てを失った。しかし看護士の彼女は「 爪なんて皮膚。皮膚が取れただけ 」と気にもとめない豪傑ぶり。
自分はとてもその域に達せれないので処置を開始する。剥がれた爪はテーピングを取らない限りは一応本来あるべき位置に収まったままのようだ。
ならこのままにしてしまおう。爪の辺りを中心に更にテーピングを重ね、爪と小指とを固定した。大会が終わるまでこの状態で放置だ。
そしてヘッドライトで足全体を照らして状態を確認する。踵や側面部に足裏。そして指にも大なり小なり水ぶくれができている。
これはこれは・・道理で痛いはずである。
安全ピンを取り出し、針の部分をライターで炙る。ちなみにこの安全ピンは自分で持ち込んだものを不注意で失くしてしまった際に、
岩手のS藤さんが分けてくれたものだ。かなり大きな針になっているので、水ぶくれに刺し込む際は緊張感があって非常によい。
一つ潰しては消毒液をかけて傷テープなどを貼り付け、その作業を黙々と繰り返す。だがライトの僅かな光では治療は遅々として進まない。

なんとか治療を終え、むくみへの対処のため靴下を先程までの2枚重ねから1枚へ変更する。
このまますぐに靴も履こうかとおもったが、便意があったため一旦草履に履き替える。
トイレットペーパーを携えチェックポイントを見渡したが、トイレのようなものは発見できなかった。
致し方なし。チェックポイントからコースとは明後日の方向へ100mほど離れたところで立ち止まる。ここいらでいいだろう。
両手でその場に穴を掘り、使用後はトイレットペーパーとともに埋めた。人生初の野戦であった。
ちなみに私のトイレットペーパーは天然素材100%の美濃和紙製なのでちゃんと土(砂?)に還ってくれるはずである。

バックパックの元に戻り、出発の準備を整える。この夜の走行のために持ってきたウインドブレーカー上下を着込む
このウインドブレーカーは上下合わせても100g程度の超軽量だが、風は充分に防いでくれる優れものである。
準備中、お尻修繕用のテープをくださった56番テントのOさんが夜間に一人は危険なので一緒に行こうと誘ってくださるが、
そんなもったいないことはできないのでやんわりとお断りする。
Oさんを見送ったあと、いよいよ靴を履く。
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!
やっぱり凄まじく痛い。涙目にまでなっている。が、靴下1枚分の窮屈が緩和されたため、靴内の圧迫感は幾分かマシである。
熱をもっていた足が一旦冷やされたためか、痛みの質も脈拍に合わせた鈍痛に変わっている。これはこれでかなり鬱陶しい。
装備や靴の脱着や治療にトイレなど全てに時間を要してしまい、結局1時間以上この場に留まってしまった。はっきり言って大誤算であった。

闘志

時刻は22時15分。第5チェックポイントまでは約13km。中々に遠い。
歩き始めるとすぐに足は再び熱を持ち始め、痛みも一緒になって帰ってきた。
気が滅入る。そういえば痛み止めを飲むのも忘れていたな。
どうしようかなと考えつつ、気を紛らわすためにこのオーバーナイトステージで初めて音楽を聴きながら歩くことにした。
イヤホンを装着し、iPhoneで選曲を行う。
ふと、学生時分に流行ったゲームのサウンドトラックが目に入った。・・・これでいいか。
サウンドトラック内をランダムに再生するよう設定する。曲が流れ始める。
とても陰気なミュージックの裏で時折鼓動のようなものが鳴り響く。暗いなぁ~。
そう思いつつも徒然に聴いていると・・・

突然曲調がアップテンポの激しものに変化したっ!

と、同時に!

アドレナリンどばばばばばばば。もうこれしか私には表現のしようがありません(笑)。
全身に力が漲り急に闘志が涌いてきた。それも、自分では抑制できない程に。
顔を上げ目をかっ開いて正面を睨み、ストックを強く握って力いっぱい地面に突き刺し、
大股で痛いはずの足を踏み込む!痛いが痛くぇ!関係ねぇ!なんだこれは!!?

先程抜かれた選手達を次々パスして行く。なんだこれは!!?
どんなに足が痛もうが問題ねぇ!ジャマがあろうが関係ねぇ!!
進行方向にラクダ草などの障害物が現れようが構わず踏み潰してただひたすら一直線に進み続ける。なんなんだこれは・・。

このときのことは本当によくわからない。それまで抑制されていたものが爆発したのだろか!?完全に変なスイッチが入ってしまっていた。
頭の一部は妙に冷静だったが止めようがない。ストックを力いっぱい刺すなんて行為は、ほとんど意味がないはずなのに止めてはいけない気がした。
このカタチが自分の闘志の現れ。そんな気がしてそのままヘッドライトの電池が切れるまでの約1時間半、体が赴くままに任せた。
精神が肉体を凌駕した、初めての経験だった。

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