マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.11(全5ページ)

2014年4月、弊社の社員である尾西基樹30歳(独身)が、世界で最も過酷とされるサハラマラソンに参戦した記録譚、第11回。
今回からはサハラマラソンでもとりわけ過酷であろうオーバーナイトステージに突入します。コースの全長が81.5km、制限時間はジャック・バウアーも真っ青の34時間!!この厳しい状況を、果たして尾西基樹30歳は乗り越えることができるのか!

ちなみに、このステージは本人の思い入れが強く、少々の長編となっております。気長にお付き合いください。

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4月9日、10日

第4ステージ 81.5km(オーバナイトステージ)/制限時間 34時間

勝負の朝

いつもの通り、テントメイトの身支度に合わせて起床する。昨晩の夜更かしの影響もなく心地のよい朝だ。
だが起きて間もない早い時刻にリタイアとなった2名がテントを去っていった。5名になったテントは妙に広く、そして寂しい。

本日のスタートは9時。そして総合50位まで、及び女子の上位選手は3時間遅れの12時スタートだそうだ。
本日は81.5km。2日間に渡って行われるため、ゴールが早ければそれだけ長く休息を取れる。
上位陣の走行時間は8時間を切るため、ゴール地点への機材やスタッフの輸送などを考慮してスタートを遅らしているのではないかと推測している。
平均的な選手であればコースのどこかで彼らに追い抜かれるのことになる。トップ選手の走りを見せる演出としての意味もあるのだろう。

今日のコースの確認を行う。
コースがあまりに長く、そして制限時間等の注意すべき事柄が多いため、取り出すのが億劫なロードブックではなく、何かすぐ見れるものに内容を書き写そうと思い立つ。
持ち物を漁り、医療品袋にキズパワーパッドの包み紙があるのを発見。・・まあこれでいいか。一応携帯していたボールペンで以下のように書き込んだ。

  • S~CP1 9.7km/平坦砂地
  • CP1~CP2 11.6km/山→砂丘→平坦
  • CP2~CP3 10.7km/平坦→峡抜け→平坦 ※11時間(20時)
  • CP3~CP4 13.3km/丘陵×2→峡抜け→平坦→山→平坦 ※16時間(翌深夜1時)
  • CP4~CP5 12.8km/平坦砂地
  • CP5~CP6 11.6km/平坦砂地 ※30時間(翌15時)
  • CP6~F 11.8km/平坦砂地 ※34時間(翌19時)

CPとはチェックポイントの略称。※印は制限時間。今日のステージはゴール以外にも関門があるため油断できない。
各チェックポイントの距離と大体の地形、制限時間。これさえ分かれば問題ない。紙を失わないようにフロントバックの内ポケットにしまう。
本日もいつも通り第1チェックポイントまでの約10kmを走り、その後は歩き通す。
練習で同程度の距離を走ったのはただの一度だけ。約ひと月前、堺の自宅から滋賀の大津までを少々遠回りをして10時間30分だった。
だがそのときとは環境も疲労も比べものにならない。このステージを如何にこなすかがマラソン素人・尾西 基樹の大きな課題であった。
どうするかは第3ステージの記事で書いた通りずっと以前から決めていた。

寝ず甚八で起きた総司作戦(意訳:夜を徹して頑張ります)

寝ずに進む理由のひとつに恐らく現在悲惨な状況になっているであろう総合順位を少しでも上げたいという気持ちがある。
同じ程度の順位の選手が1時間寝れば1時間、2時間寝れば2時間。寝ずに進めばそれと同じだけのタイムが私のアドバンテージとして総合順位に表れるはずだ。
だがこれはほとんどこじつけに過ぎない。
一番の動機は一生に一度のこの機会、最高の舞台の最高のステージででき得る限りの無茶をし、そしてそれをでき得る限り長く楽しんでみたかった。
何も無い何も見えない暗黒のサハラを夜を徹して独り行く。これ程心沸くシュチュエーションもそうないはずだ。
完走も大事だが最大限楽しむことこそが私の第一義なのである。
目標はタイムは22時間。明日の朝7時のゴールを目指す。

次のまとまった食事はいつ何処で取れるかわからないだろうな。朝食を食べながらそんなことを考えていた。
オーバーナイトステージは制限時間を除けばそれ以外の制約はほぼないため、食事や睡眠についてはいつどこで取ろうと自由である。
(ただし、睡眠をチェックポイント以外の場所で取る場合はヘッドライト点灯の義務など小さなルールは存在する。)
食事を取るならやはり落ち着けるチェックポイント内がベストだろう。だが後半のチェックポイント間はそれぞれ10kmを大きく超えるため、恐らくクリアに3時間超はかかるはずだ。
このチェックポイント間にエネルギー切れを起こさないよう、行動食はかなり多めに(丸2日分)用意している。
更にここまでのステージで消費しなかった余りの分を合わせればおよそ2.5日分ある。
これだけあれば途中エネルギー不足に陥ることはまずないはずだ。安心してレースを進めることができる。

準備を終え少し時間でできたので、傍らに転がっていたテントの支え棒を何となく手に取ってみる。
立ち上がり、バッティングの真似事をして遊んでいるところをF岡さんに激写されてしまった。

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