マトスポブログ
サハラマラソン参戦記録 vol.10(全4ページ)
第3チェックポイントとスペインの凸凹コンビ
チェックポイントに入ると、すでに何度か見た顔のスタッフが
「 モトキィ、バンザーイ! 」と、万歳のポーズを取りながら満面の笑みでこちらに何かを求めてくる。
はいはい、わかりましたよ・・。
愛想笑いを浮かべながら万歳し、ブラボーの喝采をいただく。なんだこりゃ。誰だこんな日本語を教えたのは(笑)
だが元気が出る。ありがとうバンザイスタッフ。
この日ここまで楽しみにとっておいたササミの干し肉をいただいていると、またバンザイの声が聞こえてきた。
どうやら日本人選手はみんな同じ目にあっているようだ。
ここもたっぷり15分休んで出発。ゴールまで残り5kmだ。
フラットで進むに易い路面が続く。3km先にある遺跡まではこのままのはずだ。
薬で足の痛みは引いているが、無理をすれば悪化する可能性がある。速度を抑えて行く。
遺跡までの途中、後ろの方から妙な名詞で呼び止められる。
「 サムライさ~ん! 」
誰だ??と思い振り返ると、そこには昨日知り合ったスペイン人男性のナイスガイ。アルヴァロがいた。
サムライと私を呼ぶのは件の毛虫のためだが、私は心の中で彼のことを凸(デコ)と呼んでいた。
なぜ凸なのか?その理由は彼が長身であることと、彼といつも一緒に走っている同じくスペインのラモンが小柄であるからだ。
長身のアルヴァロが凸、小柄なラモンが凹(ボコ)、2人合わせて凸凹コンビだ。
サハラを楽しんでいる。そう思う選手の筆頭が彼らだ。
大体その日の終盤に彼らに追い抜かれるのだが、追い抜かれた後、彼らは私の視界に入ったり消えたりを頻繁に繰り返す。
良い景色や面白い地形があるとそちらに赴き、写真を撮ったりそこを散歩したりするのだ。そして満足するとコースの本流に帰ってくる。
嫌いじゃない。むしろとても好感と共感がもてる。友人になりたい程だが言葉の壁がじれったい。
スペインの凸凹コンビ。向かって左がアルヴァロ。右がラモン。ラモンはタトゥーアーティストだそうだ。
陽気な2人を見送り、ひとり黙々と進んでいると遺跡らしきものが現れた。
見えた・・・。この左右の遺跡の谷間を抜ければゴールまであと2kmだ。
遺跡周りは少し勾配があり、向かって左手の遺跡沿いに斜面を行く。
ここにもスタッフがおり、ソルトタブレットを摂るようにしきりに注意を促してくる。
ひとりでいるとついつい忘れがちになる事なのでありがたいのだが、今日はもうあと少しだし大丈夫だろうと考えながら遺跡の向こう側に目をやる。
すると、ラクダ草と砂のコブのその先にビバークが見えた。ゴールだ。
※写真提供F岡さん
ここで52番テントのH岡さんと出会う。初日にソルトタブレットをくださったN嶋さんとは同僚で、彼と一緒に参加されている。
今日も無事にレースを終えれる見込みが立ち、互いに安堵の言葉を交わす。
あと2km!いつものあの曲で走るためiPhoneを取り出し、「行ってきます!」とH岡さんに告げる。
短距離なので練習で染み付いた時速10kmで駆ける。いつも通りラストだけは多少の無茶もオーケーだ。
痛み止めがよく効いているせいか脚はよく動く。心なしか身体がピリピリするがそんなのは瑣末なことだ。
慣れた速度といっても路面は砂のため、推進力を出すのには普段よりパワーを要す。
700、800mも過ぎるとたちまち息が上がるが、ゴールが目前に迫り気持ちは高まる。
肩で息をしつつも更にペースを上げる。時折たまらず立ち止まるが、呼吸を整えると再びゴールを睨み駆け出す。
幾人かを抜いた後、ゴール200m程手前で凸凹コンビを捉える。
とっくにゴールを果たしている頃のはずだが、まさかまた道草を食っていたのか!?
拳を掲げながら彼らの脇を駆け抜ける。
すると叫び声が聞こえてきた。この声は凹だ。
スペイン語だろうか?内容はわからないが応援してくれていると解る。
それにしてもイヤホンで音楽を聴いている私の耳にここまで届かせるとは。凄い声量だな凹。
走りながら後ろを振り返り、彼に向けて親指を立てる。
そこからは立ち止まらず全速力でゴール。
時刻は17時37分。18時目標はクリアできたが、走行時間9時間は残念ながら1分切れなかった。
とはいえ、今日は猛暑だったにも関わらず集中を切らさず思い通りの展開でレースを進めることができた。
満足を感じつつ、サハラに向けて今日もありがとうございましたと一礼した。
礼を終えて振り返ると、ダンディな白髪の男性がこちらに近づいてきた。
チェックの日にトイレの使用方法について実践してくれた、あの男性だ。
彼は興奮気味に、
「 よいものを見た。素晴らしいパフォーマンス!君こそ最も素晴らしい選手だ! 」
と、ゴール後の所作がお気に召したのかえらく褒めてくれた。
貴方のトイレのパフォーマンスの方が素晴らしかったけどねと思いつつ、お礼を言って彼と握手を交わす。
スルタンのお茶を一口含んだ頃、凸凹コンビがやってきた。凹がまた何か叫んでいる。
彼らとアームレスリング式の熱い握手を交わし、お互いの健闘を讃え合った。