マトスポが取材したノンジャンルな記事を発信

Post on 2014.07.04
タグ:

サハラマラソン参戦記録 vol.5

大砂丘に突入して30分も経った頃だったろうか、勾配のある大きな砂丘を登りその頂きに立った際、下りを見るとより勾配があり、ほとんど絶壁に見き えた。
恐らく30°程度なのだが、この斜面を見た瞬間、雪山での滑走を思い出し、一気に高揚した。
更に左手を見るとちょうど撮影用の赤いヘリが飛来し、こちらを見ている。
「これはやるっきゃないで!」
そう思い、堅実に下る選手を尻目に、雄叫びを上げ一気呵成に全速力で駆け降りる。足が止まらず、勢い余ってそのまま次の砂丘に突入した。
同い年の水泳の北島康介選手のセリフを借りると、超気持ちよかった!
無理せず堅実に進むべきと頭ではわかっているのに、たまにこういう無茶を敢行してしまうのが自身の性格だと理解している。
この無茶の代償はすぐに返ってきた。

滑走からしばらくし、補給を摂ろうと行動食を詰めたフロントバック左右のボトルを確認したところ
3、4日分のナッツと干し肉、さらにソルトタブレットの全てを詰めた右のボトルが失くなっていることに気づいた。
前兆はあった。ペットボトルをフロントバック上部に差し込んだ際、右の行動食ボトルと干渉し、ホルダーから浮いてグラついていた。
落とさないよう注意していたのだが一体どこで・・ってあそこしかない。嬉しがって大滑走したあのときだ。

やってしまった・・。恐らくもう手元には還ってこないだろう。行動食の3割強とソルトタブレットを丸々失ってしまったのだ。代えはきかない。
どうする・・・

うん・・まあいいや。
行動食を摂らなかった故にここまで気づかなかったわけであり、裏を返せばそれほど必要ではなかったということだ。残りの分を回せばきっと最終日までなんとかもつだろう。
切り替えが早く、済んだことを気にしないのが私の長所である。と、思いたい。
以下の写真はこの後オフィシャルのカメラマンが捉えた私の走行姿。フロントバック右のホルダーが空である。この状況でも笑顔を絶やさない能天気な・・もとい前向きな姿勢である。うっ・・。

 

少し荷が軽くなったのはいいが、行動食による塩分等の補給の多くはできなくなってしまった。スポーツドリンクを多めに摂取してミネラルを稼ぐ。
コースが尾根に差し掛かるとバラけていた選手が一ヶ所に集まり行列となる。まるで兵隊の行軍だ。
ナポレオンのエジプト侵攻や世界大戦の北アフリカ戦線もこんな感じだったのかなと考えたりした。

 

 

尾根を越える辺りで面白い選手に出会う。No.1143、スペインの選手のようだ。

 

恰幅のいいオヤジさんで、一息に砂丘を駆け下りるやそのまま次の砂丘へ登り、頂上で止まる。そして歌う!
一緒にいるややスローペースの男性をそうやって励ましながら進んでいるようだ。んー励ましているのか?
男性が追いつくとまた駆け下り、登り、歌う。歌も妙に上手い。
その姿がコミカルで、周りの選手も自然と笑顔がこぼれる。笑うと元気が出る。凄いオヤジさんだ。

私はよい景色が現れると休憩がてら立ち止まり、一眼レフカメラを取り出して撮影を行う。そんなことを繰り返していた。
フロントバックの上部にはペットボトルを横向きに差しており、カメラを出し入れするにも結構時間を食う。
そんな調子なので後続の選手に次々パスされていく。
そんなうちに52番テントのN嶋さんが追いついてきた。
お互いの無事を喜び、調子を確認し合う。彼の足元を見るとゲーターが大きく浮いていた。接着剤が砂と熱で剥離してしまったらしい。
ドキッとして自分の足元を見る。・・・甲の辺りが少し浮いている。私も接着剤でゲータを固定していたのだ。
このままいけば最終日まで持たないのは明白である。ゴールしたら修繕しなければ・・。

するとここでN嶋さんから意外な情報が。

「尾西さんボトル落としましたよね?後続の日本人が拾って持っていますよ。」

!!!

「美味しそうなのがいっぱいだから食べちゃおうかぁ~とみんなで言ってましたけど(笑)」

ほ、本当ですか!いやいやまさか見つけてくれているなんてとういか持って進んでくれているなんて。
けっこう重いのでもしかしたら破棄するかもとのだが、善意が嬉くちょっとウルっときてしまった。

ここでなぜボトルが私のものだと判ったか疑問に思った方もいらっしゃるでしょうが、答えは簡単です。
ボトルに名前を書いていました。
このボトルに関わらず、持ち込んだほぼ全ての装備に日の丸のシールを貼り、その余白に”ONISHI Motoki”とサインペンでキュキュっと。

ああぁっ!よかった!深夜に黙々と行った名前書き作業がこんなところで役立つなんて!
所持品に名前を書くことの重要性を教えてくれた小学校の先生、ありがとう!

ただし、拾っていただいた日本人の名ははっきりせず、ずっと後続のようなので現時点では受取りを諦め、ゴール後にその方を探すことにした。
しばらくN嶋さんと雑談し、ソルトタブレットの話題になり紛失したことを伝えると、彼が私物のソルトタブレットをくれると言う。
いただくべきか、少し迷った。

サハラマラソンは練習を始めたときからずっと独りで、本番でも極力他人の頼らず、独力で闘おうと考えていた。
元々馴れ合いを好まず、単独行動の多い性質だ。それも相まってその考えは少し凝り固まったものとなっていた。

タブレットを失ったのは自己責任。だから彼からの申し出を受けるとその考えを曲げることになってしまう。
だから少し迷った。

だがよくよく思い返してみると、すでに多くの助けを受けている。
チェックシートの件や先ほどのボトルもそう。
しっかり練習できたのも周りの環境のおかげであり、出立に到るまでの間、多くの人に援けられていた。

N嶋さんは日本人選手の中でもトップクラスに明るくポジティブで、誠実を絵に描いたような方だ。
この申し出もきっと当たり前の善意からだろう。

受けることにした。受けさせていただいた。
こだわりを捨てる訳ではない。自身の力でやるべきところはやればいい。
そうでないところは互いに助け、協力すればいいのだ。
でなければす自身も初参加で厳しい状況の中、私を気遣ってくれたN嶋さんに申し訳が立たない。

そう思い、タブレットを受け取ると気持ちが軽くなった。
やはりサハラは偉大であり寛容だ。さっそく自分のよくないところを洗ってくれた。

いただいたソルトタブレットをさっそく飲み、もう少し休んでいくというN嶋さんに別れを告げた。
水はまだ十分あるのでスポーツシャツの上から腕に少しかける。このシャツは濡れている状態で風に当たると非常に涼しい。
もっとも風は相変わらずの向かい風で進むには辛いのだが。
塩分を補給でき、一時的にだが体温も下がったことで少し楽になる。
だが荷物だけは相変わらず激しく重い。両手を後ろに回し、バックパックを支える。ゴールしたら不要な食料を破棄しようと誓う。

ペースは相変わらずで、そのうちにRお姉様と出会う。
お姉様は2回目の出場だが、見ればけっこう消耗されている様子。
彼女によると、今日のコースはかなりキツく、気温は40℃をとっくに超えているだろうとのこと。
聞きたくなかった現実を聞いてしまった。
だが気温が高いだけで湿度は低く、不快感は少ない。ここを我慢すれば後は何とかなりそうだ。
ちなみに次の日の朝のアナウンスによると、この日の気温は46~47℃程度だったそうだ。

逃げ場のない日差しをこらえて黙々と歩く。仲間と喋りながら進んでいた選手もこの頃にはみな下を向き、ただただこなすように歩いている。
例のオヤジさんのパフォーマンスも終了してしまっている。みなかなり苦しい状況だとわかる。
この苦しさを一層演出してくれるのは、大砂丘の終わりが見えないことだ。
精神的に参ってくると、以下のような悪循環のパターンに陥るのだ。実際の写真と一緒に参考いただきたい。

 

  1. 見晴らしのいい砂丘の頂点(※丁度画像を撮っている位置)から、目視できる最果ての砂丘(※ヘリが見える辺り)を確認する
  2. その最果ての砂丘を登り切ればきっと砂丘群が終わる=第1チェックポイントが見えるはずだと考える
  3. だがしかし、必死に進み最果ての砂丘を登り切って見えるのはまた同じような砂丘群の光景
  4. 期待しただけに先程より一層落ち込み、死にそうな顔で1の作業へと戻る

これを何度も何度も何度も何度も嫌というほど繰り返す。

そういった苦しみが嫌になったのかそれとも脱水症状なのか、
選手の安全と監視のためにコースの脇に居るスタッフとジープの傍らで、幾人かの選手が座り、うな垂れている。

・・・他人事ではない。自分の位置は後ろから数えた方が早いだろう。ここままいけば自分も・・などどつい考えてしまう。
初日の、しかも第1チェックポイントにも辿り着けずリタイアなどとなったら、一体どの面下げて日本へ帰ればよいのやら。
消耗し、つい余計なことを考えてしまう。
完走できなきなくてもまた次頑張れば・・いや、ダメだ。サハラマラソンに限ってはそれは絶対にしたくなかった。
最初からチャンスはこの1回限り、そう決めてきた。次はない。
思い直し顔を上げ、毛虫の前立てに手を触れ自らを鼓舞した。

 

後編(vol.6)へ続く。

advertisement

advertisement

1 2 3 4