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Post on 2015.01.14
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サハラマラソン参戦記録 vol.13

明けましておめでとうございます!
本年もマトスポを何卒宜しくお願い致します!
2015年1発目の記事はこちら!!

2014年4月、弊社の社員である尾西基樹30歳(独身)が、世界で最も過酷とされるサハラマラソンに参戦した記録譚、第13回。
過酷であり幻想的なサハラにズッポリはまっているようです。

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暗闇の荒野

現在38km地点。時刻は19時。
まだ微かに明るいがあと30分も経てば完全な暗闇となるであろう。
気温もまだ高いがここから急激に下がっていくはずだ。
気温は15度付近になるはずなので、動いているとはいえこの状態で風に晒されれば体が冷えてしまう。
どこかでウインドブレーカーを着用しなくては。
ヘッドライトの灯りを足元に向け、ぼちぼちと歩き始める。

・・・静かだ。

スタートからすでに10時間が経過しているため選手間の距離は大きく延びており、足音や雑音はほとんど聞こえてこない。
そして乾燥し空気の澄んだこの暗闇がより一層の静寂を感じさせる。
だがそれとは対象的に足が、耳が、肩がズキズキと騒がしく痛い。ついでに目鼻耳の垢はえらいことになっている。
だが、気持ちだけは微かに高揚している。
いよいよ訪れた非日常への期待が一切の不安を払拭してくれている。

コース脇で火を起こして食事の準備をしている選手がいる。確かにいつもならもう食事の時分だ。
だが行動食のみでいくと決めた以上私には関係ない。歩きながら胡桃とドライフルーツのデーツを取り出す。
ご存知の方も多いだろうが、ムスリムがラマダーン期間のうち日没後に最初に口にするのがデーツだ。
消化吸収が早い上、無機質やビタミン、炭水化物、そして胃の消化活動まで助けてくれるなど、このレースへの適正も高い。
このデーツを胡桃と一緒に食べるとまろやかで非常に美味である。この組合せを行動食に選んで本当に正解であった。

幾人かの選手が近くを進んでいる状態だが、彼らのヘッドライトの灯りが私のそれよりかなり明るいような気がする。
私のものもそこそこ光量のあるものを選んだはずなのだがおかしいな・・・。
まあいい、足元を照らす分にはとりあえず問題ないしこのまま進もう。周りの情報がないためかえって進行に集中できる。
都合のよいことに月齢は既に上弦を超えており、思いのほか明るい。サハラにきた時はまだ三日月程だったのに随分と経ったものだ。

白銀の世界

夜間の走行は山越えから始まった。登り道を淡々とこなし、頂点へ着くとそこからはしばらく平らな道が続いている。
やがて下りに差し掛かるが、ここでまた悪い癖がでる。
いまいる山は大部分が砂で構成されており、下りはそれがより顕著で見える範囲ほぼ全て砂であった。そして夜の砂はヘッドライトが当たる部分以外は白く見える。
その光景に思わず「雪っ!?雪や、雪山や!!」と童心を丸出しにしていると、すぐ前にいた男性選手が何事か理解したのか、笑い出して「Dive!」と声をかけてきた。
2人して歓声をあげながら砂山を落ちるように走り下った。感覚としては本当に雪山を直滑降でもしているかのようだった。
危険箇所が出てきたのでそこで終わってしまったが大満足である。一緒にバカをしてくれた男性選手と互いのストックを交わせた。

そこで一服し、ふと麓を見て驚愕する。視界一面に広がる雲海、そして所々山の頂が顔を覗かせている。
これにも思わず笑いがでる。勿論今いる砂山がそんな高所のわけがないので雲海であるはずがないし、その麓に山の頂など当然存在しない。
答えはなんということはない、平坦な砂地の路が雲海、コブ状になった草木が山の頂。雪山同様、”そう見えた”のだ。
そんなまさかと思われる方もいるかもしれないが、あのとき私は確かにそれを見た。一生涯忘れられないであろう不思議で美しい光景だった。

雲海を見ながら山を下りきり、正面に目をやるとなだらかではあるがまた登りが待っていた。登りだと前を行く選手の灯りがよく見える。

登りに入って一時忘れていた痛みもまたぶり返す。なんだかお腹も痛くなってきた。次のチェックポイントで色々とケアしなければ。
途中停車されていたスタッフのランドクルーザーのライトの光とエンジン音が妙に心地よく感じた。
登りを終えると、目と鼻の先に大きな光源があった。第4チェックポイントだ。

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