マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.5(全4ページ)

  • いよいよスタート そして大砂丘へ

撮影用の赤いヘリコプターが機体の側面をこちらへ向け、超低空で迫ってくる。
みな思い思いにヘリに向けアピール!これを2、3度繰り返す。私も拳を掲げ吠える。

 

ヘリが去ってからはみな一気に真剣モード。私は興奮を抑えきれず周りに引っ張られながら走っていた。完全なオーバーペース。
これはマズい。この半年前に初めて参加したハーフマラソンの大会のときと同じだ。
このときも周りのペースに乗って最初の10kmを私としては異常なペースで進めてしまい後半バテる結果となった。
更にオーバーペースで走った代償はレース後に筋肉痛として如実に現れた。
ワンデイのマラソンならその日を乗り切りさえすればそれでもいい。だがサハラマラソンはステージレースである。
自身の力を鑑みてペースを決め、次の日の更にその次の日を見据えトータルで戦う必要がある。少なくとも私はそう考えていた。
故にいまの状況は非常によろしくない。このまま進めれば体力と脚力が削られ、後々命取りになるかもしれない。

快調に飛ばす集団の中、ペースを落とすのは悔しかったが、他人を意識するなと自分と言い聞かせて一旦歩を緩める。
他人と走った経験は前述のハーフマラソンの他には記録会の1回だけである。後続に次々と追い抜かされるが仕切り直しのためこれは仕方がなかった。

何とか落ち着きを取り戻して気持ちに余裕ができた頃、大砂丘の入口が見えてきた。

 

砂丘に入った集団の動きは目に見えて緩まっている。
腰に差していた折り畳みストックを組み立て、最初の砂丘へと足を踏み入れる。

やはり沈む。崩れそうになる体制をストックで支え、次の一歩を踏み出す。
砂浜とも鳥取砂丘とも何か違う・・・砂の粒子が細かいせいだろうか。感覚は異なるが、幸いすぐ慣れることができた。
何せ見える範囲は地平の先まで全て砂なのだ。こんな状況では嫌でも慣れるし慣れなければならない。
”サハラ”と聞いて多くの方が想像する風景はこの大砂丘の光景だろうと思う。私もそうだった。
故に何度も何度もこの大砂丘を想像し、走るイメージを重ねてきたが実際にはそれを遥かに凌駕するとんでもないスケールで、走るなんてことは到底できはしなかった。
さっそくサハラの雄大さとその洗礼を受け、自然と笑いが込み上げてくる。
周りも選手も大体そのような感じで、アップダウンの繰り返しと時刻の割に強過ぎる日差しにさらされているにも係わらず、みな素敵な苦笑いに溢れている。

 

 

路面は砂丘というだけあってもちろん全て砂で構成されているのだが、ときおり植物がその砂地から生えている。地下に水脈でもあるのかなんとも不思議な光景である。
ちなみにこのような植物の陰には小動物が潜んでいる可能性があり、極力近寄らない方がよい。
現にこの砂丘で他の日本人選手がサソリに遭遇している。藪は突かず、意識的に避けて通る。

走路にはときおりマーキングを施した石や植物が道標として存在し、この道標を基準にしてさえいれば進路の選択は概ね自由。
しかし、多くの場合は前行く選手について進むことになる。なぜならこれが最も思考を省ける選択となるからである。
炎天下の中、延々何kmも行くのだ。できるだけシンプルに進みたい。
私も最初のうちは前にならえで進んでいた。が、ふとひとつ先ふたつ先に見える砂丘の大きさや斜度を見るに、決して今いる路が最良ではないのではないかと思えてきた。
思い切って進路を変えてみる。
最初は遠回りに見えたが、不思議なことに合流点が近づくにつれ前にいたはずの選手をパスすることができた。進行自体も格段に面白くなり、少し冒険している気分にもなれる。
また、そうした人があまり通っていない走路は路面が荒らされておらず、踏み込んだ際に足をとられず進むことができるのだ。
そうしたことを知ってか知らずか、遥か彼方を単独で進み続けるタフな冒険者もいた。

 

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