マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.21(全3ページ)

後書

この参戦記について

参戦記のお話をいただいた当初、書くべきか否か大いに悩んだ。文章の稚拙さはもとより、どこまでをどう書けばよいか迷ったからだ。
ネットを駆使して情報を漁っていた私は、すでに有意なサハラマラソンの記事が多く存在することを知っていた。
なら自分はどうすべきか考え、結局感じた事や起きた出来事を可能な限り全て書き尽くすことにした。担当者にその旨を伝えるとオーケーが出たのでこのようなボリュームになってしまった。
加えて参戦記の話が出たのも帰国後だったので、現地にいる際は出来事の記録を取っておらず、写真や自身その他の選手のタイムなどを漁って記憶を掘り起こし、思い出しては一行二行と書き記していくことになったので書き上げるのに更に長い時間を要した。
友人知人に「 見ているよ。 」「 続きまだ? 」と言われる度になんとも恥ずかしい思いをしたものだ。

他参加者の記録なども確認し、でき得る限りの整合をとったが間違いもあるだろう。どうかご容赦願いたい。

そしてこの参戦記で真に伝えたかったことは下記に関連する。

サハラマラソンから帰ってきてよくかけられる言葉が2つある。
ひとつは「何か変わった?」

何がどうとは上手く言えないが、思い当たるものが2つある。
先ず、考え方が少し柔和なった。
先のSNSの拒絶に象徴されるように、凝り固まり狭かった了見が様々な出会いによってこじ開けられた。

いまひとつは絶対的な自信の裏打ちを得たこと。
勘違いをしていただきたくないのだが、これは完走を果たしたからではない。
この自信は日本を発つ前にはすでに得ていたのだ。
それは走暦ゼロだった私が憧れひとつで情熱の全てを傾け準備をし、4,000kmの練習をやり抜いたこと。
やれることは全てやった悔いはない。これで駄目ならそれは仕方がない。そう思えるまでの満足を得れていたことに。
そういった域にまで自分を持っていけたことが今の私の大いなる自信の裏打ちと成っているのだ。

さて、もうひとつよく言われるのは「よく挑戦したね。」という言葉だ。
私を知る人がこの言葉をかけるのも無理のない話だ。参加の経緯については未だに驚かれることがある。
だが、この”挑戦”という言葉は私のサハラマラソンと最も遠いところにあると言える。
サハラマラソンに関して、私はただの一度も挑むとかそれに類似する感情を抱いたことはなかった。
その証拠にこの参戦記でも”挑む”や”チャレンジ”といった言葉は一度も使用していない。
参戦記のタイトル自体も当初担当者から上がってきた「挑戦記」といったものを、私には当てはまらないとからと変えていただいた程だ。

楽しそうだから参加したい。でも楽しむためには練習が必要だから練習した。そして思う存分楽しんで帰ってきた。
これが私のサハラマラソンだ。

長々と書いたが、これこそが私が真に伝えたかったことである。

サハラマラソンにはどんなクレイジーな奴らが参加し、どんな滅茶苦茶なフィールドでどんな面白いアクシデントが起り、
どんな素敵な非日常の中でどんな厄介な興奮を得るのか。その堪らないドラマ。それを体験できる楽しさを伝えたかった。
その為には感じた事、起きた出来事をありのままに全て書くしかなかったのだ。
きっとその方がどれだけ頑張っただとか、どれだけ困難だったという内容より多くの人の興味をそそるだろう。
そしてそれはこれからサハラマラソンに参加しようと考えている方の後押しにもなるのではないかと考えたのだ。

未来のサハラランナーへ

マラソンブームのいま、ただのマラソンに飽きた選手達の一部はトレイルランニングに移り、いずれアドベンチャーレースに手を出すことだろう。
国内のトレイルランニング大会の増加、新たなアドベンチャーレースの誕生など、その傾向はすでに顕著に現れ始めている。
ここでこの参戦記を参考にするかもしれない未来のサハラランナーに注意点を述べておく。

先ず、私が集めた装備品、食料はあくまで私と同レベルの選手が参考にすべきものである。
上位を狙う自信のある方や、ある程度の走力のある方は大会の流れを知る程度にとどめていただきたい。
また同レベルの選手でも、この人はいけたんだからと安易に情報を盲信しないでいただきたい。
現に私はここで公開した食料の3分の1を現地で捨てたし(しかもそれでも充分過ぎた)、装備品も軽量よりやや性能を重視して集めた。
その結果一眼レフカメラは論外としても、13kgという多大なハンデを文字通り背負うこととなった。

初参加の不安などもありこの程度の重量になる選手は多くいたが、断言できる。装備は軽い越したことはない。
性能を求めるのは本当に重要なものだけで、必携装備の一部を含めるそれ以外の装備は代用が効くものも多いので性能は重要ではない。
次回出場時の私のバックパックは恐らく8kg程度の重量になると予想している。

練習に関してもそうだ。
私は練習で4,000kmを走ったが、その距離程の成果は上げれなかった。
原因は色々あるが、先ず練習効率が悪かったこと。
負荷をかけることはともかく、肝心の走り自体はただダラダラとただ走っていただけに過ぎない。走行中にもきちんとしたメニューを組み込むべきだ。
ランニングマシンでの練習は悪天候時は仕方ないが、余程の負荷をかけない限りそれ以外の状況で行うのはただのダイエット。愚の骨頂である。

本編をご覧になった方はお分かりだろうが、サハラマラソンはマラソンよりはトレイルランニングに近い。
そのためそれらに強い選手や、足腰に加え豊富で知識を持っている登山家が良い成績を上げていた印象がある。
フィールドとなるサハラのコースは毎年変わるが、構成はサハラの常通り砂砂漠が20~30%、礫砂漠と岩石砂漠で70%といったところだろう。

長々と説教臭く書いたが、これらも信じすぎてはいけない!
おいおい、じゃあどうすればいんだよと思われるだろうが、それはご自分で考えていただきたい。
悩み考えながら道中を大いに楽しみ、自分なりの正解を作り上げていただきたいのだ。
そしてそれこそがアドベンチャーレースの醍醐味であると私は考える。

それでも分からなこと、困ったことがあればこのページや私のFacebookのアカウント宛に助けを求めていただきたい。
私に分かることであればどんな些細なことでもお答えしよう。
できるだけ多くの方にあの面白おかしい体験をしていただきたいのだ。

寛容で偉大なるサハラの舞台。その門戸は常に開かれている。

 

平成27年1月13日
尾西 基樹31歳(独身)

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