マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.16(全5ページ)

御守り

喝采の中、スルタンのお茶をいただいていると撮影スタッフに誘導され、協賛者のロゴが並んだボードの前で記念撮影。
この記念撮影や先程のフィニッシュの写真。そしてコース上で選手を捉えた写真の数々は後日オフィシャルサイトから購入できる。
ちなみにけっこういいお値段である。私を含め大抵の人はついつい買ってしまうのでしょうが。

記念撮影後、近くのテントで水の配給を受ける。ここでもなぜか「バンザーイ!」で迎えられる。
ここで男性スタッフが私の手に持った帽子の前立てに興味を示し、見せてくれと手を差し出す。
すでに似たようなやり取りを何度もしている。はいはいどうぞ、と彼に帽子を手渡したその瞬間。

前立てが落ちた。

・・またか。またネジが緩んだのだろうか?前立てを拾い上げると男性スタッフが「すまない。」と帽子を返してくる。
問題ないよと伝える。だがやれやれ、テントに戻ったら修理をしなくては。
1.5Lのペットボトル3本を両手で抱え、右手の先で帽子と落ちた前立てを挟んでテントに向かう。

53番テントへの道中、擦れ違う選手やスタッフはみんな何かしら声をかけてくれる。
だが彼らの声を聞いても首にかかるメダルを見てもいまいち完走の実感がない。
ただやるべきことをやって、それが終わった。何とも淡白な感じがする。
先に丘陵でのことがあったせいもあるだろうが、意外とこんなものなのかなと変に納得する。

日本人テント群を通る。すでに完走を果たした選手達はリラックスして思い思いに完走の余韻を過ごしている。
もう明日の為に足の治療等に躍起にならなくてよいのだ。

そして我が53番テントに着く。K池さんと、そして宣言通り今日は走れるだけ走ったRくんの2人が休んでいた。
沢山の選手やスタッフより、やはり同じテントの彼らからの祝福が一番嬉しい。
ちなみにK池さんの今日の成績は4時間19分。やはり今日はスピードのある選手が優位だったようで、なんと27位の好成績。化け物(褒め言葉)である。
そしてK池さんまで辿り着けたことで42.195kmの便意から開放が確定して安堵する。道中何度K池さんの菩薩顔が浮かんだものか。
だが彼に紙を貰う前にやることがある。レースを終えた直後のこの姿を写真に収めるため、Rくんに撮影を依頼する。

完走報告用の真面目な画と、素のふざけた画の2枚撮り。後々のためにこういった使い分けはとても重要なのである。

さて、トイレへと向かう。開き直ってまた左のトイレへ入る。
結果から言うと今日は何も起きなかった。当たり前である。今までがおかし過ぎたのだ。
宿便の業から開放されいい気分でテントへ戻る。

完走メダルの写真を撮ったりしているとF岡さんが帰ってきた。完走を果たしたというのに私と同じくなんだかポーっとしている。
F岡さんと話しているうちにS和さんも無事帰還。我々とは違い、彼の眼は赤く腫れぼったい。
これで我がテントは本日スタートした全員が完走を果たすことができた。
それにしても他者の完走がこんなに嬉しいものだとは。みなもきっと同じことを感じていたに違いない。

前立ての修理を行うためにネジ締めに使うナイフを取り出す。
完走を果たしたのになぜ修理を?と思われる方もいらっしゃるだろうが、一応レースとしては明日のチャリティーステージが残っている。
ユニセフを絡めたチャリティーを主としたパレードで、7.7kmと距離が短く総合記録にも加算されない。
完走者はこのチャリティーステージへの参加が義務づけられているため、衣装は直しておかなければならない。

そんな訳で修理行うのだが、毛虫の前立てを見て驚いた。
ネジを止めるための金具。前立て側の金属の輪っかが根元から折れている。
そんなバカな・・。コースの途中で直したときは特に何もなっていなかったはずだ。
じゃああのフィニッシュ後のテントで・・か?

そこまで考えたところで思わずハッとする。

そうだ、そうなのだ。レースを終えたすぐその後に折れたのだ。
灼熱の太陽からの御守として伊勢神宮でもとめた天照皇大神宮の守札。それを貼り付けた前立てが根元から。

・・・・・。

隣にいたK池さんに同意を求めるように経緯を話す。
「護ってくれたんだ・・。」と、K池さん。そしてそれを聞いていた仲間も同意を示す。

そうだ・・。そうに違いない!
ただの偶然かもしれない。恐らくはネジの締め過ぎによる金属疲労かなにかだろう。
が、私は信じる。半分は冗談で取り付けたこの前立てだが、間違いなく私を護ってくれた。
そして完走と同時にその役割を終えたのだ。

そう思うと途端にこの毛虫の前立てが愛おしくなった。ただの自作物がたった一週間やそこらで無二の宝に変わってしまった。
こうなると尚更この毛虫の前立てと一緒に明日のチャリティーステージを過ごせないのは口惜しい。
幸い壊れた下部の止め具の他に、上部にも止め具がある。流石に反対向きで帽子に取り付ける訳にはいかないので、
笛に付いていた紐を外し、それを取り付けて首からぶら下げれるようにした。
これでよし!最後まで一緒だ。

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