マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.11(全5ページ)

Happy Desert

バックパックを装着し今日も早めにスタートに向かおうとした際、2人組のスタッフの姿が目に入る。
ひとりはビデオカメラを手に持ち、もうひとりはスタートでお馴染みの「 Happy 」をスピーカーで流して踊っている。
選手を捕まえては曲に合わせて踊ることを求め、それがこちらに近づいてきている。
面倒な予感がしたので、さっさと立ち去ろうと思ったところを彼らに目ざとく見つけられてカメラを向けられる。
すまないけど他をあたってくれというジェスチャーを示す。残念そうなリアクションを取る彼ら。少し悪いことをしてしまったかな。
このときはこの撮影の意図が分からなかったのだが、後日大会の動画を観て得心がいった。

「Happy Desert – 29th Sultan MARATHON DES SABLES 2014」

 

痛恨のミス・・。この動画を観て、あのとき面倒くさがらずに暴れておけばよかったと心底後悔しました。
ちなみに、2分39秒に私が一瞬映っています。見つけてみてください。

撮影スタッフをかわし、スタートに着くと昨日同様数名が待機しているのみであった。
エアアーチの陰に座り、自身の状態を確認する。気分はとてもいい。が、スタート前にもかかわらず足にはすでに痛みがある。
第1チェックポイントまでは走りたいので思い切って痛み止めを1錠服用する。今飲めばスタートの頃に丁度効いてくるだろう。
痛め止めを飲みすぎるのはよくないので、今日のオーバーナイトステージでは最大3錠に抑えることにする。
1錠で効果は5~6時間ほどあるはずなので、3錠あればかなりの時間をカバーできるはずだ。
スタートラインで先程の撮影隊が別のスタッフをそそのかしている。スキンヘッドのスタッフがそれに乗り、過激に踊り始める。
結局1人で1曲全て踊り切り、周りから拍手喝采。本当に面白いなぁこの大会。

オーバーナイトステージスタート

スタート予定時刻の9時を過ぎた頃、ようやくパトリックス氏が現れ私も起立する。
今日はスタートラインのすぐ近く、かなり前の方でのスタートを試みる。カウントダウン中、後方でどよめきが起る。
見ると熱中症と思われる男性選手1名が口から泡を吹いて倒れていた。スタートの待機時間が長すぎたのだろうか。
カウントダウンの中断はなく、そのままスタート。2日間に渡る長丁場が始まった。

最初の路面は少々石はあるものの、走る分には支障は無い。痛み止めもよく効いている。
左手に同じテントのKさんが走っていたが、徐々にペースを上げてそのうち見えなくなった。今日も快調に飛ばしておられる。
石の路面が続くが、時折高さはないが横に広い砂丘が取って付けたように現れ、それを越す者と迂回する者に別れて選手団がだんだんとバラけてゆく。
私は迂回路を選択しながら走る。ここまでのステージで最もよく足が動いている。
速度もそれなりに出ているはずなのだが、後方から「 頑張って!」との声とともに黄色い帽子の小柄の男性が私の脇を抜いていく。
大会きっての鉄人、七大陸最高峰と8,000m峰6座登頂のH本さんだ。実績が凄すぎてもうよく分からない。
Hさんは3回目のサハラマラソン参加。御年62歳で今回は年代別での優勝を狙っておられるとのこと。その足取りは非常に軽やかだ。
それ程速く走っておられるようには見えないのだが、気づけばいつの間にやら引き離されている。近くでもっと所作を観察したかっただけに残念だ。

路面は砂地に変わり、砂のコブとコブの間を抜けるように走る。コブに茂る足の長い草木が時折ウェアに引っかかって鬱陶しい。
コブになると足をとられ登りは歩きがちになり速度が落ちる。が、逆にそれが息を整えるのに丁度よい休憩になる。
ここで走路の傍らに太めの木の枝が落ちているのを見つける。長さ80cm程だろうか。太刀のような反りがある。
手を伸ばして拾ってみる。枝の凹凸がとてもよく手に馴染む。いい・・・とてもいい。
初日に拾った実や今朝の支え棒に象徴されるように、私はこういう傍らにふと落ちているものに惹かれてしまう。
ここまではストックは使っておらず、手は空いていたので木の枝を順手で右手に持つ。
ストック代わりにしているわけでもないので、周りの選手は何やってんだコイツという目で見てくる。
だがそんなことはどうでもいい。えらく気に入ったので、この木の枝丸(木の枝に付けた名前)とともに80kmを走破しようと誓う。

そうこうしているうちに、砂地が終わり、第1チェックポイントが見えてきた。

第1チェックポイントの悲劇

スタートから9.7kmを1時間15分程でクリア。私としてはいいペースである。いつも第1チェックポイントで見ない顔が多いことでもそれがわかる。
まだ8分の1ではあるが、タイム的にはかなりの貯金を作れた。順調過ぎて怖いくらいだ。少し気にかかることもあるが。

走ると水の消費が激しい。受け取った1.5Lの水を胸ボトルに注ぐ。と、そのとき、手に持っていたボトルのフタを地面に落としてしまった。
やれやれ。ボトルを拾おうと前かがみになったそのとき
ドバドバドバッ
んっ?
右足付近の地面が濡れている・・。ハッと気がつき身を起こす。
恐る恐るフタのない右のボトルを見る。水が盛大に減っている。
やっちまった!こんなベタなミスをするとは・・。
しかしいい角度で綺麗に零れたものだ。200~300mlは失ってしまっただろうか。隣に居た白人選手の何ともいえない憐れみの視線が痛い。
この凡ミスにより第2チェックポイントまでの11.6kmは給水を少し抑え気味で行わなければならなくなった。
困ったことだ。すぐ先にはアレがあるのになぁ・・・。視線をチェックポイントの出口の方角に移す。
視界の端に存在し続け、先程から気にかかっていた岩山のことである。

標高741m。勾配は最大30%。コース上に鎮座しており、その先に見えるはずの全てを遮っている。
昨日の山とは比べ物にならない規模だ。選手の列の流れを見る限り、チェックポイントから1km程は緩やかに登り、
その後はやや勾配のある砂地を通っていくようだ。その先は視界が遮られて確認ができない。
こんな規模の岩山は登った経験がない。どうやってあの岩肌を越えるのだろうか?不安を覚えつつチェックポイントを後にする。

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