マトスポブログ

サハラマラソン参戦記録 vol.10(全4ページ)

メール

テントへの帰り道、ペットボトル3本を抱えて歩いている姿はゴール直後とすぐわかるのであろう、
すでにゴールを終えた選手やスタッフがブラボー、お疲れ様と讃え労ってくれる。
ゴール直後の安堵と、この大会の温かい雰囲気と人々に触れて今更ながら心地よさと充足感を得る。

テントに帰るとK池さん、Rくん、そして前日ゴール後に倒れたS藤さんがすでに横になっていた。
S藤さんに抜かれた覚えがないので、あれ?っと感じたがそれを察したのか彼の口から
「 リタイアになりました。」と告げられた。
昨日倒れた後、何とか回復を図りスタートラインに立ったが、すでに気持ちが折れており第1チェックポイント付近でレースを終えたとのこと。
残念でならない。またひとり仲間が去ってしまうのか・・。
そして足の状態が悪く、昨日S藤さんと同じくギリギリでゴールしたS本さんのことが気にかかる。

時刻的に先の2日間より日照時間が長いため足のケアをしっかりと行うことができる。
両足とも水ぶくれがいたるところにできている。指はもちろん、踵の外側が特に酷い。
メディカルに行こうか考えたが、もう既に凄まじく混んでいるようなので諦めて自分で処置を施す。
昨日手術したはずのK池さんの足の包帯が妙にキレイなので聞いてみると、本日新たに手術を受けたとのこと。
K池さん程の走暦が長く、実力がある方でも(K池さんは故障明けにも係らず全体で160位台で日本人3位の好成績)痛みと戦いながらレースを続けているのだ。

ちなみにK池さんは手術のあとメールサービスのテントに並び、日本で彼の無事を祈っているご家族にメールを送られたそうだ。
ここまでメールサービスについて明記していなかったが各選手1日2通(だったはず・・)の無料送信、そしてそれ以降は有料での送信ができる。
メールサービスのテントにはパソコンが設置されており、それを使用してローマ字で文章を打つ。
このサービスは人気で、テントには常に長蛇の列ができている。しかし砂漠のど真ん中でメールとは・・。衛星携帯でも介しているのであろうか?

また、受信のサービスもありこちらは無料である。ただし送信者はローマ字かつ送信相手の選手名とゼッケンを明記しなければならない。
そして用紙に印字したものを、1日1回スタッフがテントに届けてくれるシステムだ。初日に自身の居住テントを提出したが、その理由はここにもある。

テントのみなはそれぞれ毎日激励のメールを受け取っていた・・・・・私を除いて。
メールサービスのことは知っていたが、送信方法を説明するのが面倒だったので誰にも伝えていなかったのだ。
メール配布時はみな嬉しそうにメッセージを見ている。一方、手持ち無沙汰の私はテントメイトに絡んだりしていた。
広島在住であるK池さんは一家揃っての広島カープファンであり、ご家族からのメールには毎日カープの試合結果が記載されていた。
同じくカープファンである私には嬉しい情報源であった。

小指の爪を失ったS和さんと、また水を捨ててまたエラい目にあったF岡さんは無事(?)ゴールを果たした。
そして、暗くなってからS本さんが戻ってきた。その姿はすぐにそれと分かる。リタイアだ。
限界超えてもまだ歩き通したのであろう、元々激しく痛んでいた足は更に悪化し、一歩ごとに激しい痛みに耐えているのが伝わってくる。
ストックがなければまともに歩くことさえできないようで、彼の配水のボトルはスタッフが抱えていた。
経緯を語る彼の悔しそうな表情と、その凄まじいガッツは私の心に深く残った。

レース中に感じたとおりこの日は最も暑い一日となり、気温は48℃とも50℃ともいわれた。
暑さはリタイア者数に直結し、今大会中最も多い42名がレースを終えた。
我が53番テントも遂に5名となってしまった。

3日目の終わり

食事を終え、トイレへと向かう。食事の時間帯は万国共通、トイレは混むものだ。
トイレの中で瞬くヘッドライトの明かりをボーッと見つめながら順番を待つ。待ちきれない数名が闇夜の彼方に消えていく。

ようやく私の番となり、中に入りトイレ袋を付けようと便座を見ると、なんと足の一部が破損しているではないか!
嫌な予感がしつつも袋を取り付けて恐る恐る座ってみる。・・・ダメだ。
破損している便座左側の足が私の体重を支えきれず、その方向に便座全体が倒れ込む。これはいけない。
だが、既に賽は投げられたのだ。覚悟を決め、左脚全体に力を入れて空気椅子の要領で姿勢のキープを試みる。
3日間で120km近くを走破し疲弊した脚である。すぐに悲鳴を上げ、脚は激しく痙攣する。
苦しさのあまり呻き声を上げる私のシルエットに、外で待つ選手達は多分の不安を感じたであろう。
絶望の中、なんとか用を終えトイレを出る。外で順番を待つ選手には何も告げず笑顔でその場を後にした。サハラマラソンは過酷なのだ。

ちなみに壊れた便座は一番左のトイレだった。チェックの夜に私がミスを犯したのも一番左のトイレ・・・。これが因果応報か。

そして壊れた繋がりでこの日、ゴール後に大事なものが壊れているのに気がついた。

「 尾西さん、お尻破れてるよ。」

テントメイトからの指摘を受け、ハーフパンツの後ろに手を回してみる。
大きい・・。
ハーフパンツを脱いで確認してみる。ほぼ中央にタバコの箱程度の大きさの穴があいていた。
日本で荷造りをしている際に、同じ位置に1円にも満たないサイズの穴があいているのを発見したが、まあいいやとそのまま荷物に詰めた。
恐らくその穴が拡がったのであろう。レース中、後ろからはどう見えていたか想像してみる。
ハーフパンツの下にはスポーツタイツを履いているので直ではない。モラルは保たれていたはずだ。
位置的にもバックパックの底に装着したマットで上手く隠れていた・・と思う。

善後策を考える。穴があいていても走行には何ら問題ない。が、あまりに無残だ。
何か修繕できる機材がないか日本人テントを聞いて回る。そして56番テントで同い年のOさんにから補修テープをいただくことができた。
上手く穴を塞ぐことができ、文明人としての威儀を保てたことに安堵する。

さて、テントに戻り早めに床に入る。明日そして明後日はいよいよレースの山場。81.5kmのオーバーナイトステージだ。
オーバーナイトステージの制限時間は34時間。平均的なランナーであれば一夜を越すことになる。
もし、少しでも総合順位を上げたいのであれば勝負はこのステージ。寝ずに一気にゴールまで行くことができれば・・。そう日本にいるときからずっと考えていた。
寝ずに進むのであれば今夜はできるだけ早く休むのが好ましい。

が、中々寝付くことができない。

漫画「 ダイの大冒険 」が面白過ぎるのだ。
日本を発つ際、長旅の暇潰しのためにiPhoneで購入&ダウンロードしてきた。
思っていた以上に面白くどんどん読み進めていたが、モロッコに入ってからはさすがにビバークまでのバスの中で読んだのが最後だった。
が、続きが気になりこの大事なときについ開いてしまったのだ。
続きの内容はというと、ちょうどダイのギガスラッシュとハドラー全身全霊の超魔爆炎覇が激突する場面。
それまでの流れと最高に熱い展開に興奮し、寝るを忘れて一気に読み進める。
武人として目覚めたハドラーの生き様、死に様を見届けた後、我に返りテントを見渡すと全員就寝していた。
時刻は既に23時。この旅一番の夜更かしを終え、今度こそ真面目に就寝する。
しかし後悔はない。感動した。ありがとうハドラー、俺も悔いのないよう頑張るよ。

競技結果

4月8日 第3ステージ 37.5km/制限時間 10時間30分
出走/983名(うち日本人36名)
完走/941名(うち日本人33名)
リタイア/42名(うち日本人3名)

No.1024 ONISHI Motoki
タイム 9:01:08
順位 753/941位

各ポイント通過時刻
スタート/8:36:06
第1チェックポイント(10.6km)/10:21:27
第2チェックポイント(12.9km)/13:58:32
第3チェックポイント(9.0km)/16:26:37
ゴール(5.0km)/17:37:14

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